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第七章 蜜月8

「本当に宏輝は俺の傍にいてくれる? 俺をひとりにしない?」 「そういうマサくんだって、僕をひとりにしない? 僕をおいていかない?」 「そんなことできるわけがない」 「僕だってそうだ」  宏輝は背の高い将大を見上げ、顎下にキスをする。 「僕はマサくんがいないと生きていけない……マサくんがいない世界なんて意味がない……そんなことになるくらいなら……」 「そのときは、一緒に」  上から覆い被さる、将大の唇。 「うん。一緒に……」  宏輝と将大はそのままキッチンのフローリングに突っ伏し、互いの存在を確かめた。 「床、痛くない?」 「大丈夫」 「ヒロ、本当に、本当に俺を捨てない? 俺を置いて出て行かない?」 「僕はずっとマサくんのそばにいるから……」  宏輝は将大に愛されながら、不安がる将大を何度も慰めた。 「僕はマサくんを悲しませないから……」 「ああ……ヒロ……ヒロ、ずっと、俺のそばに……」 「安心して、マサくん。僕は絶対に逃げないから……」  宏輝は将大の背に手を回し、子供のように宥め続けた。  その日の夜。宏輝は流されるように将大の部屋へ泊まることになった。  だが宏輝は不思議と眠ることができなかった。  将大に対する恐れか――この感情を畏怖だと決めつけてしまうのには、違和感が残る。 『おまじない』のあと、体力のない宏輝はたいていすぐに意識を飛ばしてしまうのだが、今夜は妙に目が冴えて、将大の匂いのついた毛布に包まっても、いっこうに睡魔は訪れなかった。 「宏輝、まだ眠れないのか?」  毛布の中の宏輝の頭上から、心配そうな将大の声が聞こえる。 「これ、飲むか? 軽いものだから、初めてでも問題ないと思うが」  将大が跪く。毛布から顔を出した宏輝と目が合う。将大の手のひらには白くて小さな錠剤が一粒乗っていた。 「これ……何の薬? マサくんが飲んでるの?」 「お前の脳は興奮状態で疲れているんだ。これを飲めば少しは落ち着くから……まずはゆっくり休め」 「うん……」  宏輝は将大から錠剤を受け取り、それを水で流しこんだ。 「それから横になって、あとは目をつむって――」 「マサくんも一緒に……」  即効性なのか、宏輝は重く閉じゆく目蓋を何とか持ち上げて、微睡みの世界から将大を呼びこむ。 「僕の隣に……」  将大は宏輝の隣に横たわり、彼が寝付くまで、その髪を撫で続けた。

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