66 / 82

第八章 最奥の汚点1

 寝苦しいと感じたのは、何も暑さのせいだけではないと宏輝は思う。  今は六月。今年は例年よりも梅雨の時期が短い。来週には開けるのではないかと、スマートフォンのヘッドラインニュースで見たような気がする。  気がする、とぼやかした理由は、宏輝はここ数日の記憶がひどく曖昧で、それが何日前の出来事なのか、本当に現実の記憶なのかがはっきりしないからだ。  将大の匂いが染みこんだ毛布に包まり、宏輝はぼんやりと天井を眺める。こうして見ると築年数のわりに染みが目立つ。綺麗好きな将大の部屋とは思えない汚点だ。隠されていたのか、気づこうとしなかったのか――おそらく後者だろう。  将大のアパートへ泊まるようになってから、どれくらい経っただろう。  もう何日も帰っていない。  大学にもしばらく通っていない。  冷静になって考えれば異常な事態だということはすぐにわかるのに、宏輝の思考はどんよりと沈んだままで、自分の身体を動かそうと思うことすら面倒くさい。  宏輝はごろりと寝返りを打つ。  寝室の中には宏輝ひとり。将大の姿はない。あの扉は開くのだろうか。ずっと閉められたままの気がする。ああでも、扉まで向かうのが億劫で、確かめようと思う気すら起こらない。  ――マサくん……どこ……?  カーテンが閉ざされたままの部屋は薄暗く、今が何時なのかもわからない。真っ暗ではないから、おそらく夕方なのだろうか。スマートフォンもあるが、あいにく充電が切れてしまっている。充電器は将大に借りるしかない。  将大はどこへ行ってしまったのだろう。

ともだちにシェアしよう!