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第八章 最奥の汚点2

 ――女の子みたいに可愛いのね。  見上げる視線が高い。乾いた砂の匂いがする。  当時六歳の宏輝は公園の砂場で小さな山を作り、ひとり遊びをしていた。そこに通りかかったのが、若く綺麗な女の人と自分と同じくらいの男の子――彼が将大だ。  幼い将大と目が合ったのは一瞬だったと思う。  将大は昔から人見知りで、積極的に周りと話したがろうとはしなかった。幼い将大と目が合ったのは、彼の母親がひとりで遊ぶ宏輝を不思議がったせいだろう。  ――ぼく、お母さんと一緒じゃないの?  宏輝が首を横に振ると、将大の母親は驚いた顔を見せ、こんな時間に? と訊いた。  その声に周りを見渡すと、陽はすでに沈んでいて、ちらほらと街灯が点いていたのだ。  ――おうちはどこ? おばさんたちが送ってあげる。ね、いいでしょ、マサくん。  マサくん、と声をかけられた将大はこくりと頷き、それきり目が合うことはなかった。  将大の母親と手を繋ぎ、大体の家の場所を伝えると、まあ近いわね、と返される。母親のもう片方の手は将大が握っていた。  今なら思い出せる。この状況を。  宏輝の両親は共働きで、近くに祖父母のいない宏輝は毎日毎日作り置きの惣菜やパンを食べ、両親が帰るのを待っていた。  そんな生活に嫌気がさしていた頃、宏輝は両親に内緒で家を抜け出し、近所の公園で過ごすようになっていたのである。  将大と仲良くなったのはそれから幾日も経たない頃だ。訊けば、彼には父親がいないらしい。当時は自分と同じだと思って喜んでいた将大の境遇の真実に気づいたのは、それからもう少し、あとのことである。  ――知らない人について行っちゃだめよ。

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