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第八章 最奥の汚点4
「そういえばマサくん。大学へ行かなくていいの?」
「別に構わない」
「ずる休み?」
「いや。必要な休みだ」
「ふーん」
ひどい悪夢にうなされてから二、三日が経ったような気がする。
その日の朝、宏輝は将大とふたりで朝食を摂っていた。白いご飯に、ワカメの味噌汁。味付け海苔、目玉焼き、漬物。すべて将大が用意したものだ。こうして見ると包丁を使うほどの料理が出たことがないとわかる。包丁は。
――ヒロ、俺はお前がいないとだめなんだ……
あの日のことを思い出してしまう。
宏輝は目の前の幻影を忘れようと、目蓋を閉じ、首を左右にブンブンと振った。
「どうしたんだ?」
将大がその行為を見咎める。
「何でもないから」
宏輝は笑いながら味噌汁を啜る。少し塩辛い。そういえば、いつの間にか、食器がふたり分に増えていた。
当たり前のように将大の日常に染まっていく。
宏輝はもとより、将大だってここ何日か大学へ通っていない。このままではどちらも駄目になってしまう――わかっていても、今の生活を改善できなかった。
「ねえ、マサくん……僕はいつまでここにいればいいの?」
シャツの袖に腕を通しながら、宏輝は背後の将大に問う。将大は何も言わずに、宏輝が脱ぎ捨てたTシャツを拾い上げた。
「マサくんは僕をどうしたいの?」
「……俺の近くにいてほしい」
「マサくんの近くにいて、それでどうしたらいいの?」
「わからない」
「わからない?」
「でも、ヒロが離れていくのは耐えられない……」
将大は宏輝のTシャツをぐしゃりと抱えこむ。皺が寄ったシャツにひどく心が軋む。将大の心痛みが、シャツを伝わって宏輝に流れこんできた。
「……マサくんは、今日大学へ行くの?」
「悪い……」
「僕を置いていくの?」
「……」
「じゃあ家に帰ってもいい?」
「……それは無理だ」
「どうして?」
宏輝の問いかけに、将大は視線を背ける。
「ねえ、どうして?」
「……それを言ったら、ヒロは俺を許さない」
「そんなの言われないとわからないじゃないか」
「……」
将大は考えこむようにして視線をずらし、やがて重い口を開いた。
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