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第八章 最奥の汚点6

 間宮夏紀が不審を感じたのは、宏輝と最後に会った日からしばらく経った頃である。  その日は大学の構内で、偶然将大と鉢合わせたのだ。いや、鉢合わせたというのは語弊があるだろう。現に将大のほうは間宮と目が合った瞬間、はっとした表情になり、そそくさと立ち去ったのだ。  おかしい、と間宮は思う。それはあまりにも当たり前すぎて、初めはそれが不自然なことだとは気づけなかった。将大の隣に、宏輝の姿がなかったのである。  間宮にとって将大は恋敵だ。その隣に宏輝がいないことは、むしろ喜ぶべき事案だろう。だがそれよりも、間宮の心を占めたのは将大に対する不信感と敵愾心、そして宏輝の身に何かが起きたのではないかという妙な胸騒ぎであった。 「ウッチー先輩……」  間宮は登録だけしておいて使ったことのない番号を呼び出す。相手は間宮が半ば強引にその番号を入手したことを知っている。それでも消さずに取っておいてくれたことは知っている。間宮はその番号に――内田宏輝の携帯番号へかける。  しばらく待ってはみたものの、結果的に間宮の耳へ届いたものは、この番号は現在電波が届かないところに……というお決まりのメッセージだった。  それから時間を見て何度かかけ直したが、結果は変わらず。その日、宏輝が通話に応じることはなかった。  そして今日。  間宮の姿は将大のアパートの前にあった。あれから着信の回数は優に二十を超え、これ以上の接触はまた嫌われてしまうのではないかと、間宮が諦めかけていたそのとき、偶然にも将大の姿を発見する。  その隣には今日も、宏輝の姿はなかった。

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