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第八章 最奥の汚点7

 将大は扉を開けたことを後悔した。 「間宮……どうしてここが」 「長谷川先輩、内田先輩はどこにいるんですか?」 「ここにはいない」 「嘘ですね」 「どうしてそう思う」 「俺、見たから」 「見た、とは?」  ――厄介な相手だ。  将大は胸の裡でほぞを噛む。宏輝に近づく者は、こちらが牽制さえすれば大概の相手は引き下がる。  だが、間宮は違った。  彼は粘着質で執拗、かつ狡猾な男だ。それに宏輝への想いも、今までの奴らとは桁が違うだろう。 「内田先輩には言ってないけど、俺、合鍵作りましたから。それ使って先輩のアパートに行ったら誰もいない。ポストには数日分の郵便物がそのままになっていた」 「だからどうした。宏輝だって成人した男だ。数日留守にしたところで、特に問題だとは思わないが」 「内田先輩にとって、それはありえない。それはあんたが一番よく知っていることじゃないのか?」  ――本当に、この男は厄介な相手だ。 「回りくどいのは嫌いなんではっきり言うけど、内田先輩はここにいるんだろ?」 「仮に宏輝が俺の家にいたとしても、間宮、お前には関係ないことだ」 「とにかく、中に入れてください」 「どうして? お前を招き入れる必要性は感じられないが」 「俺は内田先輩に会いたい」 「だから宏輝はここにはいないと何度も言って――」  そのとき。アパートの奥からガチャーンと何かが割れるような音がした。 「……ヒロ?」  その破裂音の正体を考える前に、将大の身体は動いていた。 「ちょっ、長谷川先輩?」 「宏輝っ!」  将大は部屋の奥へ走っていく。間宮もまた、将大へと続く。部屋の中はどこか雑然としていて、外からの侵入者を拒むような……少なくとも間宮は歓迎されていないように思えた。 「ヒロっ、宏輝!」  将大の悲痛な叫びが聞こえる。間宮はその声が聞こえた方へ向かう。  そこはキッチンだった。  そして――。 「う……内田先輩……?」  床に座りこんだままの宏輝の横に将大が寄り添っている。そして彼らの周囲には割れた食器やゴミ、そして切れ味の良さそうな包丁が転がっていた。

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