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最終章 共依存3
十年前のあの日から瓦解した関係性は、今でも修復できてはいない。
「ね、僕って気持ち悪いでしょ? 汚いでしょ? 身体だけじゃない。あの日から誰を見ても自分を傷つける悪い人間だって思う。そんなことないってわかっているのに。本当に気持ち悪い。自分自身に吐き気がする。僕は自分から孤独を選んで、自分の殻に閉じこもって、自分以外の人間は全部敵だって思いこむようになって。馬鹿らしい。汚い。醜い。心も身体も全部嫌いだ。だけど――」
宏輝はすっと視線を将大へ合わせる。
「マサくんは僕がどれだけ突き放しても絶対に離れようとはしなかったね」
一時は将大を鬱陶しい存在だと吐き捨てたこともある。学年が上がってクラスが変わったら、将大以外の友人を作ろうと努力したこともある。積極的に部活動にも参加しようと強く思った。
だが、それらは何ひとつ叶わなかった。
怖いのだ。将大以外の人間が怖くてしかたないのだ。
「僕は頑張ってマサくんを嫌いになろうとしたのに……っ、マサくんがいないって思うだけで心が痛くて……苦しくて、ずっと泣いて、夢の中でもマサくんの姿を探して……」
「ヒロ……」
「本当はマサくんに全部話して楽になりたかったのに……嫌われてもいいから、マサくんに全部話して、できることなら助けてほしかったのに……僕は、僕は結局……マサくんを傷つけることしかできなくて……」
「お前は誰も傷つけてない」
「マサくんは自分の痛みに気づいてないだけだよ……だって僕は、マサくんが泣いたところなんて一度も見たことがない――」
「そんなことはない」
「ううん、違う。僕が知らないってだけじゃない。初めて会ったときからずっと、僕はマサくんが自分のために泣いているところを見たことがない。マサくんは自分がどんなに辛い目に遭っても、何事もない顔しているけど、それって普通じゃないんだよ?」
「俺たちの間に普通なことなんて何ひとつない」
「そういう問題じゃないっ、僕は、僕はマサくんが辛そうにしているのを、もう見たくないんだ。泣きたいときは泣いてもいいんだよ? それはかっこ悪いことじゃない。強がらなくてもいい。せめて……っ、せめて僕の前だけは、本当のマサくんを見せてほしい……って、僕はずっと思っていた……」
「……俺は、お前にずっと嘘をついていたのか?」
「違う……違う……ああ、もう、どうして伝わらないんだ……」
「ヒロ……」
「どうして……どうして、僕は、こんなに、こんなに悲しいんだ……」
宏輝の手から包丁が落ちる。
「僕がこんなに泣いているのに……っ、ま、マサくんは、どうして、どうして――」
宏輝は両手で顔を覆う。指の間からもボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「もう僕は自分のこともマサくんのこともわからない……どうして僕はこんなに泣いて、マサくんは、っ、マサくんは、ま、マサくんは……」
「ヒロ……」
優しい将大の腕が背中に回る。
「……ありがとう」
そう聞こえたとき、宏輝の唇に柔らかいものが伝った。
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