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最終章 共依存4
「マサ……くん?」
今のは何だ。
「どうして……?」
「『おまじない』」
将大はそう言うと、もう一度唇を押しつける。今度は先程よりも、深く。
「ヒロ、俺はな……」
『おまじない』と称したキスの間に、将大は言葉を紡ぐ。宏輝はただされるがままになっていたが、唇が重なるたびに全身を縛っていた何かの糸が、一本ずつ解けていくような、そんな解放感を感じた。
「俺はヒロの前だけは格好良くいたかったんだ。お前が思う俺であり続けるために……お前の隣にいるときは、お前にふさわしい男であり続けたかったんだ」
「……マサくんはそのままでも充分かっこいいよ?」
「強がっていただけだ」
軽いリップ音。
「お前に嫌われたくなかったから」
重なる唇。
「なあ、宏輝……俺は卑屈で見栄っ張りで嫉妬深い男なんだ」
「……知ってる」
「そんな俺でも、これからも俺はお前の隣にいたい……」
将大は宏輝を抱き寄せ、艶を失った髪に手を伸ばす。すうっと梳くと、かすかにシャンプーの匂いがした。
「ヒロ……お前は綺麗だ」
「……こんな僕でも、まだ、好きだって言ってくれるの……?」
「違うよ、ヒロ」
どくん、と将大の鼓動が胸を伝う。
「俺はお前を愛している」
どくん、どくん、と全身の血が脈打つ。
「……どうしようマサくん。何だかふわふわする。息が、吸えない」
「俺も」
「マサくん……っ」
宏輝は少し高い将大の顔を引き寄せ、今度は自分から唇を合わせる。
「嬉しすぎて、胸が痛いよ……っ」
「ヒロ……」
宏輝の行為に将大も応える。
次第に互いの身体が熱を持っていく。呼吸も荒くなり、目の前がとろりと蕩けだす。
完全に飲まれる前に、宏輝は肩越しに振り返り、置物のように固まっている男を見る。
「間宮……」
その名を呼ぶと、間宮はびくりと肩を揺らす。
「そういうことだから……これが最後の忠告。間宮、僕たちに近づくな……」
宏輝が将大の方を向き直したとき、背後の扉が閉まる音が聞こえた。
――間宮夏紀……。
宏輝はその男の名を思う。厄介な男だ。しつこい男だ。
だが、彼は純粋だった。
純粋すぎて――。
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