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最終章 共依存5

「ヒロ……触ってもいいか?」  控えめな問いに、宏輝はクスリと笑う。 「今さら?」  宏輝は将大の肌に触れ、その表面をつうっと撫でる。 「もう充分触れている……一緒にお風呂も入ったでしょ?」 「でも……」 「僕に触れていいのはマサくんだけ……マサくんだけなの……」 「本当に?」 「本当だよ。どうしてそう何回も訊くの?」  宏輝が意地悪に問うと、将大は顔を伏せ、ぼそぼそと答える。 「何?」  聞こえなくて問い返すと、将大は「不安だから」と答えた。 「不安?」 「……夢みたいだって思って」 「夢じゃないよ、マサくん」 「俺は本当にヒロのことが好きだって思った」  照れながらも甘いセリフを紡ぐ将大を、宏輝は心の底から可愛いと思う。  将大は俯せたまま、顔だけを宏輝に向ける。 「好きって言ってないと不安でたまらないんだ」 「……そんなに好きって言われたら、恥ずかしくってマサくんの顔見れないよ」  宏輝も将大と同じ体勢になり、赤くなった顔を隠す。  ひとつの布団で寝る幸せを、強く噛み締めながら。 「でもね、マサくん……ひとつだけ確認したいんだ」  毛布の下で手を絡ませながら、宏輝は将大の目を見る。将大の瞳は珍しく潤んでいた。 「ねえ、マサくん。僕は今、こうして一緒にいることが幸せすぎて怖い」 「怖い? どうして?」  熱を帯びた将大の瞳に見つめられると、何だかいけないことをしているような背徳感に包まれる。将大はこんなにも、人の心を惑わすような色気を持っていたのだろうか。この男を手放すことが、宏輝は途端に恐ろしくなる。 「マサくんがかっこいいから……僕なんかよりも、もっとふさわしい相手が現れたらどうしようって……」 「何度も言わせるな。俺は、ヒロの隣にずっといたいんだ。ヒロの唯一の存在になりたい。俺じゃ不満?」 「だってこのままじゃ、マサくんまで駄目になっちゃうよ? このままじゃ……」  将大は誠実な男で、謙虚で、実直で――。  宏輝は自己否定の渦からは完全に抜け出せてはいない。マイナス思考な自分と一緒だと、相手まで駄目にしてしまう。宏輝は、それが怖かった。将大の精神を悪感情に染めてしまいそうで、怖くて仕方がない。 「わかってるんだ。僕とマサくんは互いに依存している。互いがいないと生きていけない。本気でそう思っている。他の誰でもない。僕にはマサくんが。マサくんには僕がいないと生きていけないんだ」 「……俺もそう思っている。だけど、それの何が悪い?」 「え……」 「互いに依存し合って何が悪いんだ?」  依存。  依存。  依存。

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