80 / 82
最終章 共依存5
「ヒロ……触ってもいいか?」
控えめな問いに、宏輝はクスリと笑う。
「今さら?」
宏輝は将大の肌に触れ、その表面をつうっと撫でる。
「もう充分触れている……一緒にお風呂も入ったでしょ?」
「でも……」
「僕に触れていいのはマサくんだけ……マサくんだけなの……」
「本当に?」
「本当だよ。どうしてそう何回も訊くの?」
宏輝が意地悪に問うと、将大は顔を伏せ、ぼそぼそと答える。
「何?」
聞こえなくて問い返すと、将大は「不安だから」と答えた。
「不安?」
「……夢みたいだって思って」
「夢じゃないよ、マサくん」
「俺は本当にヒロのことが好きだって思った」
照れながらも甘いセリフを紡ぐ将大を、宏輝は心の底から可愛いと思う。
将大は俯せたまま、顔だけを宏輝に向ける。
「好きって言ってないと不安でたまらないんだ」
「……そんなに好きって言われたら、恥ずかしくってマサくんの顔見れないよ」
宏輝も将大と同じ体勢になり、赤くなった顔を隠す。
ひとつの布団で寝る幸せを、強く噛み締めながら。
「でもね、マサくん……ひとつだけ確認したいんだ」
毛布の下で手を絡ませながら、宏輝は将大の目を見る。将大の瞳は珍しく潤んでいた。
「ねえ、マサくん。僕は今、こうして一緒にいることが幸せすぎて怖い」
「怖い? どうして?」
熱を帯びた将大の瞳に見つめられると、何だかいけないことをしているような背徳感に包まれる。将大はこんなにも、人の心を惑わすような色気を持っていたのだろうか。この男を手放すことが、宏輝は途端に恐ろしくなる。
「マサくんがかっこいいから……僕なんかよりも、もっとふさわしい相手が現れたらどうしようって……」
「何度も言わせるな。俺は、ヒロの隣にずっといたいんだ。ヒロの唯一の存在になりたい。俺じゃ不満?」
「だってこのままじゃ、マサくんまで駄目になっちゃうよ? このままじゃ……」
将大は誠実な男で、謙虚で、実直で――。
宏輝は自己否定の渦からは完全に抜け出せてはいない。マイナス思考な自分と一緒だと、相手まで駄目にしてしまう。宏輝は、それが怖かった。将大の精神を悪感情に染めてしまいそうで、怖くて仕方がない。
「わかってるんだ。僕とマサくんは互いに依存している。互いがいないと生きていけない。本気でそう思っている。他の誰でもない。僕にはマサくんが。マサくんには僕がいないと生きていけないんだ」
「……俺もそう思っている。だけど、それの何が悪い?」
「え……」
「互いに依存し合って何が悪いんだ?」
依存。
依存。
依存。
ともだちにシェアしよう!