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アゲハチョウ 3
俺は基本的には近衛隊の預かりで、主な任務は訓練だった。
だから、訓練の時間に連れ出されるのはちょっと困ったなと思ったけれど、ついていったのは殿下と一緒にいる時間が楽しかったからだ。
こんな時間がそうそう許されるものではないと、知っていた。
まだ俺がケツに殻のついたガキだから。
そして、王弟殿下の少しの息抜きだから。
そんな周りの大人たちからの温情。
気が付いてはいたけれど、見て見ぬふりをしていた。
それよりも一緒に過ごせる時間の方が大事だった。
夏の終わりのあの日も、そうやって、中庭の東屋に連れ出されていたのだっけ。
「お前は、どのような男になるのだろうな……」
「はい?」
中庭の池の水をはじいて、呟かれた言葉。
殿下は水面を飛ぶアゲハを狙って、水をはじいているようだ。
「なに、ふと、思っただけさ……」
出会ったころからいくつかの季節が巡っていた。
華やかな笑顔に時折、影が差すことには気が付いていた。
だからと言って何ができるわけでもなかったけれど。
「殿下」
「なんだ」
「配属が、変わりました」
「……そうか」
「同じ近衛ですが、騎馬隊に移ります」
「よかったではないか。希望がかなったのだろう?」
「はい」
「話し相手が減るわたしは、寂しくなるがな」
くすくすと。
いつかのように笑いをこぼしながら、水がはじかれる。
アゲハチョウが、それを避けるように高く舞っていった。
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