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アゲハチョウ 4

近衛の騎馬隊に移ってから、幾年かがあわただしく過ぎていき。 あの時の言葉通り、王弟殿下からの急のお召はなくなった。 多分そうだと思っていた通りのこと。 少しばかりの寂しさは感じたけれど、それでいいとも思っていた。 元々、近しく話ができるような人ではなかったのだ。 子供のころの、いい思い出としておけばいい。 そう、自分にいい聞かせていた。 「何も言わずに、今宵一夜、その身を貸してほしい」 そう言われたのは今朝のこと。 国境近辺のきな臭い噂が流れてきて、ここしばらく軍部全体がそわそわしている中、上からいきなり降りてきたお達し。 理由を聞くことは、許されなかった。 日中の勤務が終わってすぐに施政宮の端の部屋に連れてこられ、そのまま待たされる。 待遇は至れり尽くせりだったのが、救いというものだ。 湯に入れられ、王宮の一流料理人の手による料理も食べさせてもらった。 何のことやらわけもわからずに、ただ、待たされていた。 「お待たせいたしました。こちらへいらせられませ」 かなりの夜更けになってから、迎えの女官がやってきた。 俺とて宿居をしたことがあるからわかる。 さわさわと空気が動いている。 全然休む気配のないこの感じ。 国境の噂だけではなく、何かがある雰囲気。 「陛下はお休みになっていないのか?」 「いいえ。先ほどお休みになられました。なぜ、そう思われますの?」 「動きが……いや、いい。気になさるな」 人目を忍ぶように、女官は足早に回廊を進んでいく。 施政宮の外れで案内人が変わった。 女官から武人に。 いや。 この方は! 「辰砂さま……」 「やあ。こんばんは」

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