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アゲハチョウ 5

二十四家の筆頭、甲骨家の辰砂さま。 近衛の分隊長でもあるこの人が、迎え? 俺の? さっきからの雰囲気といい、何だこれは。 いったい俺は、何に巻き込まれてるんだ? 「久しく会っていなかったけれど、元気そうだ」 「おかげさまで」 にこやかな笑顔に答えながらも、その真意を探りたくなる。 所属は違えど、本来なら辰砂さまは俺に命令を下す方であって、迎えに来る立場ではない。 「一体どうしたことですか?」 「なに、大したことではないさ。口外はしてほしくないがね」 「それにしたって……」 「ただ、一晩、その身を差し出してくれればいい」 王城の外れにある離宮に向かいながら、辰砂さまは笑みを消してそういった。 それは…… 「差し出せとは、そういう意味ですか?」 「そうだな。一夜の情けを乞うている方がある。その方の意向次第だが……そういうことも含めて、お前の身を差し出せ」 「……かしこまりました」 命じられている内容に、腹立ちや困惑がないといえば嘘になる。 けれど辰砂さまの言葉を丸のまま信じるならば、辰砂さま程の人に案内人をさせるなんて、その相手などおおよそ限られてくるのだ。 限られた相手を思えば、否やの言えるわけもない。 連れて行かれたのは、王城の外れ。 背後に迫りくる山に近い、離宮だった。 手にした松明だけでは足元すらおぼつかない。 そんな暗い林を抜けて、明かりを見つけた時にはほっとした。 王城を出ていないことにも。 少なくとも、相手は王城の中にいる。 「こちらだ。いいか、ここでのことは口外無用」 「はい」 「お許しがあればそのまま退出してもよい。わたしも、ここから先のことは関与せぬ」 真っ直ぐに離宮の扉を見つめて早口でそういった辰砂さまは、その目を伏せた。 「すまんな。お前につらい思いをさせることになるやもしれん」 「今更です。それに、必ずしもそうなるわけじゃないです」 「そうか。そうだな。では、行こう」 先触れも出さずに、辰砂さまは扉を開ける。

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