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アゲハチョウ 8

「“本当にわたしだ”とは……?」 「俺を呼び出すのに、辰砂さまが間に立つ方など、限られていますから……もしかして、と」 「松風」 「殿下だったらいいな、とは、思いました。けど……俺、だから。男の、俺だから。殿下ではなくて、他の姫がたかもしれないとか、ないと思うけれど、恐れ多いことになったらどうしようとか、考えてて。でも、あなたでした」 早口でまくしたてた後、卓に置かれた盃を再びあける。 ああ、思ったさ。 辰砂さまを間に立てるような人が俺に一夜の情けをって、そんなの、限られてくる。 だったら、この方がいいと思った。 ただ、遠くで見ていた人が俺に手を伸ばしてくれるのなら、その手を掴みたいと思ったんだ。 「あなたで、よかった」 ちゃんと、目を見てそう告げる。 もう子供ではない。 この話を受けたら何が待っているかなんぞ、重々承知の上だ。 「俺からは何も選べないし、できませんから。あなたが、俺を呼んでくださって嬉しいです」 「松風」 その目がいいのかと問うてくる。 具体的に何かというわけじゃない。 けれど、多分、俺には分からない色々なものがこの方には見えていて、辰砂さまにも見えていて、今、俺が必要とされてる。 それだけ、わかった。 「俺が昔、あなたを守る役職に就けないと知って、どれほど悔しかったか、あなたはご存知ないでしょう?」

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