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アゲハチョウ 9

手を引いて誘われたのは、寝室。 多分先刻まで、他の身体と睦んでいただだろう寝台の上に、俺は進んで身を投げ出す。 「お前は、素直で……バカだね」 「バカなのは知っています」 「わたしが……他の男に抱かれた身体であっても、欲しいと願うか?」 上からオレを覗き込んで問われた。 影になっていて、表情の読めない瞳。 それでも。 「あなたが俺を欲しいと思ってくれるなら、ほかの男など……と、言いたいところですが、さすがに、俺が抱く側に回るのは気が引けます…恐れ多くて」 殿下の……王族である人の体に跡を残せる人物など、この国には一人しかいないだろう。 実の兄君、国王陛下。 「誰に聞いた?」 「……ただの推論です」 「そうか」 「でも……それでも、あなたが俺を選んでくれるなら、不敬罪でも姦通罪でも何と言われても、構わないとは思います」 陛下の思いを寄せる相手に、思いを寄せたところでなんになると思っていた。 それでも、欲しいと。 愛されたいと願ってしまった。 手を差し伸べられて、掴んでしまった。 もう、手遅れだ。 「本当に……お前はバカだ。けれど、思いきれないわたしが、一番愚かなのだろうね」 囁きと共に、ご自分に向けられた嘲笑。 そんなことはないと、告げる俺の言葉は、唇の中に消えた。

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