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よもつひらさか 4
「でんか……?」
「寝ぼけているのか?」
くすくすと笑う声。
温かい手に手綱と一緒に、俺の手が握りこまれる。
確かに感じるその熱。
「殿下?」
振り向けば、そこにはあの人がいた。
いつかのように、俺を支えて手綱を捌く。
かさねは二人分の体重をものともせずに、のんびりと独特のリズムを刻んで歩く。
「この馬は、賢いいい馬だな」
「……かさねといいます。俺の相棒です」
「かさねもお前が好きらしい。お前は、なかなかにもてるのだね」
「は?」
「以前から、誰彼かまわずに好かれるヤツだと思ってはいたが、馬にまでもてるとは思っていなかったよ」
「あの、殿下?」
「二人のときくらいは、名前で呼んでおくれ」
松風。
そうやって俺の名を耳元でささやく声は、甘い。
柔らかで甘くて、記憶にない声。
この人が、柔らかな声で話をしていた時、俺はまだ子どもだった。
身体を重ねて甘い声でささやかれていた時、この人は張り詰めていた。
俺の記憶が間違いじゃないのかと、そう思ってしまうくらいに、自然で柔らかな声と雰囲気。
「槻代さま」
「本当に、お前はバカだね。おちおちと目を離していられない」
「槻代さま?」
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