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4.バツなし三十路男、ネコになる?【前編】

 ゲイじゃないことを隠してTwitterでゲイ仲間を募集して、詐欺呼ばわりされると困るので、一応自分はそうではないことをプロフに明記した。 『しがないサラリーマンやってる皿男です。ノンケだけどゲイの人と繋がりたいからRTかいいねしてください!』  これで何人集まるのか……  一週間ほど放置して何件かいいねとDM(ダイレクトメッセージ)が来ていた。51、53、49……  自分より年上のおっさんばっか。オレより年下は一人しかいなかった。その後も何故かおっさんばかり集まってきた。どれもピンとこない。プロフのメッセージを変えてみるか。 「ノンケの僕と遊んでくれる人いいねください!」  するとまたDMが。“AT45”、そのユーザー名に見覚えがあった。この人前にもメール送ってきた人だ。読んでみるとこう書いてあった。 AT45『売り専だと思われるよ』  オレはそっち系の専門用語は詳しくない。即返信した。 皿男『売り専てなに?』 AT45『男相手に身を売る男のこと』 皿男『やば、そんな意味!?』 AT45『遊んでくれる人って言ったら勘違いされるよ』 皿男『そうなんだ。オレはただゲイの人と知り合いになって、男の人と付き合えるか確かめたかっただけなんだけど』 AT45『興味があるなら紹介してあげようか?』 皿男『本当? オレ、ノンケだけど大丈夫?』 AT45『そういうのが好きな奴もいるし笑 アレを開発するのが楽しいらしい』 皿男『そうなんだ』  AT45に紹介されて、土曜の午後オレはある男性と会うことになった。コインパーキングに車を停めて待ち合わせ場所に向かって歩き出す。後から入って来た車が駐車を終えると、オレのスマホの着信音が鳴った。ボディバッグから取り出して電話に出ると『今着いたんだけど、どこら辺にいる?』と今日会うことになっている男性からの電話だった。 『もしかして今パーキングに入って来た車……』そうオレが言いかけると『そうそう!』と男性の声が重なった。その車を遠目から見るオレに気付いた男性が、こちらに向かって歩いてくる。 「“皿男”くん?」 「はい」とオレは返事した。皿男(さらおとこ)はTwitterで使用しているオレのユーザー名だ。本名は教えていない。相手の男性は―― 「僕はヒダです」 「ヒダさん」とオレは復唱する。飛騨なのか樋田なのか、そんなことはどうでもいい。それが本名なのかもわからない。多分今日限りの関係だが、礼儀として名前を覚えるために復唱した。ヒダさんは中肉中背のおっさんだった。服装や髪型はおしゃれに気を使っているのか、多少そこら辺のおっさんの中ではおしゃれに見える。ブランドのロゴがアクセントの重ね着風のポロシャツ――襟が二枚重なっている――を着て、タイトなスラックスに手入れの行き届いた革靴を履いている。54と聞いていた。顔はその歳相応に油というか艶というか中高年特有のテカリがあり、額やほうれい線に皺が刻まれているが、パーマをかけてうねった髪を丁寧に後ろに流している。オレ今日、この人に喰われちゃうのかな。ふとそんなことを考えてしまう。 「おなか空かない? 何か食べようか」  言って男性はオレを飲食店に誘った。店に入る時手がぶつかって、オレは少しビクッとした。まさか真昼間のこんな所でボディタッチではないだろう。だがちょっと焦ってしまった。少し待たされた後「ヒダ様」とヒダさんが順番待ちの名簿に書いた名前が呼ばれ、ヒダさんと一緒に店員さんに案内されて席に着く。向かいの席に腰かけたヒダさんが、ニヤニヤして見えるのは気のせいか? 脂ぎったおっさんの笑顔を見て、警戒してしまうオレだった。夜が来るのが怖い……

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