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9.バツなし三十路男、モテ期晩成?『草食系男子』に狙われる?【初めての×××編】

━━━☞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ なにこのつれない態度 澪央くんて本当は、、、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・━━━☞  草食系男子を攻略すべく、オレはいざ決戦に挑む。打倒草食系男子、打倒広永澪央! 「ほな、帰りまっか」  帰り支度を終えてオレが言った。 「帰りまっか」と海理が返す。  澪央くんにも声を掛けると、海理が「おや?」という顔をした。説いたげな海理に、「帰ろうぜ」と言ってポンと背中を叩き、オレは目配せした。「あとでラインする」とこっそり伝える。そのままオフィスを後にし、その面子で駐車場へ向かった。  歩いて数分。歩く度にジャリジャリジャリとざらついた音が鳴る。澪央くんを連れて駐車場までやって来た。ここはもうオフィスの外。オレは勢いで澪央くんと手を繋ごうとしたが、手に触れた瞬間サッと手を引っ込められた。なんだよ、手ぇぐらい繋いだっていいじゃんか? とオレはちょっと拗ねる。よし、次の作戦だ! オレは密かに企み、片方の口角を上げてニヤリとした。 「じゃ、また来週」 「おう」  途中で海理と別れて自分の車に向かう。 「~♪」  悦びで鼻歌が零れるオレ。「どうぞ」と助手席のドアを開けて澪央くんをエスコートした。パタンとドアを閉めて反対側に回り込み、運転席に乗り込む。「シートベルト閉めてね?」と言ってちらりと助手席を見ると、澪央くんが無表情な顔で座っていた。ん、緊張してるのかな? そう思っていると彼は言った。 「露句郎さん」 「ん?」 「駄目ですよ、“ここ”も」 「え、何が?」とオレが首を捻ると 「これ」とそれを指差す澪央くん。 「あ?」  無意識にオレの手が伸びて、澪央くんの肩を抱き寄せようとしていた。キスしようとする体勢に入っている。「あはは」と誤魔化すように笑って、オレはその手を引っ込めた。 「車の中って、外から丸見えですから」と冷静な声で言う澪央くん。車のフロントガラス越しに、駐車場を歩く人の姿がちらほら見える。 「ですよね……」と苦笑するオレ。いやん、つい先走ってもうた。  オレは気まずい空気を掻き消すように、エンジンをかけて車を発進させた。 「シートベルト閉めてね?」からの車内キスは失敗に終わった。だがオレはまだ諦めてはいなかった。焦るな三十路。そう、オレは三十路。大人の余裕を見せてやるぜ。ふふっ、ふふっ…… 「ふふふふふ!」 「露句郎さん」 「ん、何?」 「突然笑い出すと、怖いです」 「……!?」  あ、またやってもうた! 心の声が漏れてもうた! 「あはは、気にしないで」と誤魔化すオレ。適当にセットしてあったCDの音楽を流す。 「露句郎さん」 「ん?」 「この後予定あります?」 「え、ないけど。どっか行きたい?」 「カラオケ行きたいです」  普段は見せない無邪気な笑顔で言う澪央くん。おや? 初めて甘えてきた。なにこのギャップ? いやん、この子めっちゃかわいいんですけど。かわいすぎてつらい! 「いいよ、じゃカラオケ行こう」  ということでオレは上機嫌で、近くのカラオケボックスまで車を飛ばした。Yes Yes Ye~~s!! 「ここでいい?」 「はい」と澪央くんが首肯する。オレは、とあるカラオケボックスの駐車場に車を停めた。  店に入ると二十歳前後の若い店員が、数人フロントに立っていた。オレが記入表に名前を書く。「ご案内致します」と言って男性店員が先導する。オレと澪央くんが付いていくと、後ろからザワつく声が聴こえてきた。 「今の人かっこよくなかった?」 「背高いほうでしょ?」 「そーぉ、ヤバくない?」 「ヤバい、ちょーイケメンすぎてヤバいんだけど~!」 「だよね? ちょー思った~!」  丸聞こえなんですけど……てか、ヤバいってなんだよ。 「ふっ」とオレは鼻で笑った。澪央くん、モテるのはうちの会社の中だけではなかったか。  オレたちを部屋に通すと、店員が飲み物のオーダーを取り、簡単な説明を終えて部屋を後にする。ドアが閉まるとオレは開口した。 「澪央くん、さっそく女子をザワつかせてるね」  澪央くんは頭の上にハテナマークを浮かべて首を傾げた。なにその反応? あなた、さっきの声が自分のこと言ってたって絶対気付いてますよね? あまり関心がないのか、澪央くんはすぐに歌本を広げて頁を捲る。自分がモテることを喜ばないのはイイ奴なのか、それともイヤな奴なのか? 今、にわかに殺意が芽生えるオレだった。  数分ぐらいしてコンコンとノックする音がした。ドアが開いて、さっきとは違う女性店員が入室してくる。あ、さっきフロントにいた子だ、とオレは気付く。トレンチに注文した飲み物が乗っていた。それをテーブルの上に並べる。 「ありがとうございます」  澪央くんとオレがそれぞれ言うと、むむ? その子が照れた顔をした。オレに、ではない。澪央くんに。もう澪央くんしか目に入ってないな。急に目を丸くして口元が弛む。憧れの人に逢った時見たいな顔しやがって~! そんな顔されたことね~!  その時オレは思った。こうやって恋に落ちてくんだな、女子は……。その瞬間を見てしまったオレだった。きったない音を立ててストローでジュースをすすってやりたい気分だぜ……  その子は「ごゆっくりどうぞ」と澪央くんの顔だけ目に焼き付けるように見てから退室した。 「今の子、めっちゃ澪央くんのこと見てたね」 「……」  またスルーされた。女の子に興味ないとか? あ、でもだからオレに告白してきたのか? 「入れていいですか?」 「え? イレル?」  その音声はオレの脳内で“挿れる”と変換された。思わず鼻がプクッと膨らんで、にやけそうになるオレだったが 「歌」  さらっと澪央くんが言った。 「あ、歌ね? あはははは、いいよ先“入れて”」とオレは苦笑して誤魔化した。いや、誤魔化せてない。 「露句郎さん、今変な事想像しませんでしたか?」 「え? 変な事って?」ととぼけるオレを尻目に、澪央くんは「クスッ」とした。  澪央くんが歌い終わり、オレが入れた歌のタイトルがモニターに表示された。アイスティーが入ったコップを手に取り、それをストローで飲む澪央くん。彼の視線がモニターに注がれる。いやん、そんなに注目されると恥ずかしい~! オレは少し照れながらマイクを口元に近付けた。  最初は喉を傷めないシャウトがないポップロック系にした。普段日常会話では使わない音域、ファルセットを出すのが気持ちいい。愛がどうとか、好きだとか、くっさい歌詞詰め込んでくれてありがとう。歌だから言えるんだよな~。感情を表わすメロディの抑揚、こうやって喜怒哀楽を素直に吐き出せるのはカラオケだけだ。次はもっと激しいの入れよう~!  澪央くんもなんかリズムに乗っててノリノリだし、オレちょっとイケてる? 気分が高揚してきたオレは、得意のビブラートをかけてプロっぽく歌い上げた。くーーーーっっ、気ぃ持ち~~!  歌い終わってオレがマイクをテーブルに置くと澪央くんが言った。 「次の歌、一緒にハモりません?」と肩を抱かれる。 「?」  なにこれ急に、大胆なんですけど!? あんなにイチャイチャするのを拒んでたくせに……二人っきりになって本性を現したな、澪央くん。よし、受けて立とう!  やがてメロディが進行し、サビの二人でハモるところが来る。その瞬間オレが澪央くんの顔を見ると、澪央くんもオレのほうに顔を向けた。二人で向き合って、モニターに出ている歌詞を横目で見ながらサビをハモる。歌い切るとスカーーッとした。エンディングが流れてマイクを置く。一仕事した喉に一杯。オレはゴクゴクゴクと喉を鳴らして、ワイルドにストローでアイスコーヒーを喉に流し込んだ。「んまい(うまい)」、と天井を仰ぐと澪央くんが言った。 「露句郎さん、歌うまいですね?」 「え、そう?」  歌だけはそこそこ自信があったオレは、素直に喜んだ。 「オレが好きなアーティストに似てる。ずっと聴いてたいです」  目をうっとりさせちゃって、オレの歌に聞き惚れちゃったかな、澪央くん? 「オレ、露句郎さんの声が好きだって言ったじゃないですか? 前からずっと聴いてみたかったんですよね。歌ったらどんな感じか、ずっと気になってました」  いつになく饒舌な澪央くんに、オレはちょっと戸惑う。 「オレの声ってそんなにいい? 自分ではよくわかんないんだけど、何がいいの?」  うーん、と唸ってから澪央くんが答える。 「耳障りがいい所ですかね」 「耳障り、いいの? オレの声」 「はい」と澪央くんが頷く。 「いつもベンチで寝てるとき聴こえてくる声に癒されてます」 「癒し系? オレの声」 「そうですね。癒し系」  言って柔らかく微笑する澪央くん。ま、眩しい! そのスマイルの輝きは何ルクス? オレの声が癒し系? いやいやいや、君のスマイルのほうが何十倍も癒されるでしょ、澪央くん! 「それに、こんなに歌がうまいなんて思わなかったから、余計好きになりました」 「て……!?」 「あはは、「て」ってなんですか?」 「余計好きになりましたって!?――の「て」」 「はははは、露句郎さんて面白い人ですね」 「そうかな?……」  オモシロイヒト。――そうオレは面白い男。子供の頃から女子にも同じようなことを言われてきた。でも女子たちはそんなオレみたいな「面白い人」と言われるような男ではなく、イケてる男子の所へ行った。そこそこかわいがってもらえるけど、モテない奴がきっとよく言われる言葉だ。似たようなやつをたまに見かける。面白い人って、面白い人って……かなしい。 「露句郎さん」 「ん?」  オレは少し切ない目と不貞腐れた顔で澪央くんのほうを向いた。 「朝までずっと一緒にいましょ?」 「……?」  ん、今なんて。なんて言った? オレが困惑してキョトンとした顔で澪央くんを見ると 「こっち向いて?」  澪央くんが言った。L字型に並べられたソファー。確かそこに座った時は半人分ほど間隔が空いていた。それがいつの間にか肩と肩がぶつかるほど接近していた。澪央くんがオレにゆっくりと顔を近付けてくる。ドッキン――心臓の音が聴こえた気がした。オレの唇にぴとっと柔らかいものが当たった。澪央くんの唇だ。ゆっくりとその唇が離れて行く。瞼を開けた澪央くんと目が合った。 「澪央くん?」  うわ、初めてのチューだ!? 澪央くんと。なにこれ…… 「ヤニ臭くない」  なんだその感想、オレ。でも初めて男とした時は、おっさんだったからいろいろ臭かった。それに比べてなにこの爽やかなチュー? キュンキュンする♡  オレはすっかりメロメロになり、女子になったような気分になった。 「オレ、タバコ吸わないんで」と澪央くんが言う。 「そうなんだ」  またキスが降りてくる。え、ちょっと澪央くん攻めすぎじゃない?  澪央くんの舌がオレの口内に侵入してきた。ちょーっと待ちなさい、若者くん! 制御が利かなくなったのか、どんどん激しさを増すキスに恐れを成したオレは、よいしょっと体を離して彼に伝える。 「澪央くん、防犯カメラに映っちゃうよ?」  すると澪央くんはうっとりした余韻を残した目で 「いいです。別に」  って……。それからさらに激しいキスで攻められて、オレはヘロヘロの骨抜きにされた。すげぇ、テクニシャン♡

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