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10.バツなし三十路男、モテ期晩成?『草食系男子』に狙われる?【テディな気持ち編】
やばいやばいやばいやばい……オレの理性がもたんっ!
澪央くんのキスにヘロヘロ状態にされたオレは、意識の片隅でそう叫んだ。
れおくんがこんなにキスが巧いなんて聞いてないよぉぉぉ……!? 女子がこれをされたら完全にイッてるな。もう無理、限界。
オレは消えかけの理性を振り搾って、澪央くんから体を離した。澪央くんがキョトンとした顔でオレを見詰める。
「澪央くん……」
言ってすぐにオレは俯いた。
「はい」
咄嗟に言葉が出て来なくて、オレは頭を抱える。
「ごめん、オレこれ以上は無理っ!」
「無理?」
澪央くんの表情が曇る。
「あっ、違うんだ! 別にオレは澪央くんとキスするのがいやとか、そういうんじゃないからっ!」
「……」
「ただこれ以上こんなことしてたら理性がもたないっていうか、だからその……」
澪央くんがクスリと笑う。
「わかりました」と言って弓形に細めた目でオレをロックオンした。あうう~天使降臨っっ!
美麗な微笑の魔力で身体が溶けていくオレ。スライムになっちゃいそう~。
すると「じゃあこれで最後」と澪央くんが、オレの髪に軽くチュッとした。なにこれ髪って……少女漫画に出てくる王子様系男子か!?
キュンキュンしすぎて、このままだとオレはおネエの扉を開いてしまうぞ? 広永澪央恐るべし。半端ねぇ~女を(オレも)虜にさせる技 何個持ってんだ? ハアハア、オレ今日だけですげーやつれたかも……
れおくんの攻撃が激しすぎて死にそうなんだが。これじゃあ三十路の身が持たない……
その後オレたちは、内線に10分前コールがかかって来たのをきっかけに、延長しないで店を後にした。
車で澪央くんを住居のアパート前まで送った。適当な場所に車を停めると
「ありがとうございました」と礼を言って澪央くんが車から降りた。彼はそのまま一人でアパートのほうへ向かうのかと思ったが、運転席のほうに回り込んで、窓を叩いた。パワーウィンドウを開くと
「露句郎さんもですよ」
「へ? あ、うん……」
車から降りるよう促され、オレは言われるがままドアを開けた。勇ましい男の眼差しで微笑する澪央くん。彼の挑むような強い眼差しに、円らで純粋無垢な少年のような眼差し(自称)のオレは勝てない。澪央くんに手を引かれ、半ば強引に車から降ろされる。手はすぐに離れたが、彼に随従してアパートに入った。
アパートの中は厳重なセキュリティなどなく、よくある団地みたいな造りの建物だった。一応エレベーターはあったが
「階段でいいですか?」
「あ、うん」
まあなんとかいけるかなと思ったので澪央くんに合わせた。澪央くんが先導して階段で三階まで上がる。305号室の表札に広永の文字が入っていた。
「どうぞ」とドアを押さえて中に促され、オレは玄関に進む。バタンとドアが閉まると、澪央くんが施錠した。ガチャという音に少し緊張感が走る。そこへ
「?」
ふわっと被さるように澪央くんの顔が近付いてきた。オレの背後のドアに手を突いてオレを見詰めている。なにこれ壁ドンじゃなくて、ドアドン?
「豆鉄砲食らったみたい」
「へ?」
きょとんとするオレを見て、澪央くんがクスクス笑う。
「露句郎さん今、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してます」
「え、そんな顔してる??」
「クス……してます」
言うと澪央くんは「かわいい」とオレのおでこにチュッとした。
うわああ、キュンキュンする~! て、女子かオレ!? 不覚にも赤面してしまった。三十路の余裕皆無。
「そ、そういう澪央くんこそ、どうしちゃったの? なんかつもとキャラちがくない?」
「そうですか? 恋人と二人っきりになるといつもこんな感じですよ」
「そうなんだ……」
オレは苦笑した。どうやら彼は“化ける”タイプらしい。覚えておこう。
「澪央くんて、てっきり草食系なのかと思ってた」
「草食系……?」
言って流し目をする澪央くん。エっロ!? それムーディーな時かエロい女が男を誘惑する時の目だよ!? 澪央くんの色気と行動に、オレが一人で興奮していると
「どうぞ、上がってください」
冷静な声で澪央くんが言った。落ち着いてんなあ。オレは思わず苦笑い。
「おじゃましま~す」と言って出されたスリッパに履き替え、家に上がった。
オレを部屋に案内すると「なんか飲みましょうか」と言って、澪央くんが飲み物を出してくれた。
「ちょっと着替えますね」
「うん」
ソファー、タンス、テーブル、ベッド……。ワンルームなので全部同じ空間にある。オレはソファーで出された缶コーヒーを飲んで寛いでいたが、部屋の片隅で着替えている澪央くんのことが気になって妙に落ち着かなかった。見ちゃいけないことはないのだが――彼氏だし――視界にちらつく姿にあちこちゾワゾワする。初体験する前の高校生か、初めて彼氏の家に来た女子かオレ!?
ワイシャツとスラックスを脱いで、Tシャツとハーフパンツに着替えた澪央くんが戻ってきた。わ、なま足。すね毛薄っ、てかない。あら、以外と筋肉質なのね? スーツを着てる時は細く見えたので脱いだらひょろひょろなのかと思っていたが、腕も足もしっかり筋肉が付いていた。オレよりずっと逞しいし。鍛えてるのかな? そんなことを考えていると澪央くんもソファーに来て、オレの隣に腰かけた。
「露句郎さん、ここ座って」
「え?」
澪央くんが自分の太腿を叩いて促してきた。困惑していると、澪央くんにひょいと体を持ち上げられた。
「ちょ、え、重いからいいよ!?」
「大丈夫です。露句郎さん軽いから」
そう言うと澪央くんは、オレを膝の上に座らせた。澪央くんの腕がオレの腰に回される。
なにこれ、なんかオレ、テディベアみたいになってんだけど……
その体勢のままテレビを見て、まったりタイムを過ごす。
「澪央くん」
「何ですか?」
缶コーヒーを飲みながら澪央くんが言う。
「今日会議室で、オレが澪央くんに抱き付いた時に人来ちゃったじゃん?」
「はあ」
「あの時なんでオレに『やめてください』って言ったの?」
あの時オレは地味にいろいろショックだった。セクハラ扱いされたり……
澪央くんが答える。
「あれは演技です」
「演技?」
「はい、セクハラされてるって思わせといたら怪しまれないと思ったんで」
「なんだ、そうだったんだぁ~?」
オレはほっと胸を撫で下ろした。
「あの時、澪央くん本当はオレのこと好きじゃないのかと思った」
すると澪央くんは、呆れたような息を漏らした。
「本当にいやだったら告ったりしませんよ」
「ですよね……」
そうだ。いやだったらそもそも告らないし、こんなことしてるわけがない。間違っても、三十路の男を膝の上になんか乗せないよな。ははは、そうだそうだ。何気にちょこっとだけ引っかかっていたことだったが、その疑念が晴れて、オレは少し気が楽になった。
ふと壁に掛けた時計を見ると21時を回っていた。
「そろそろ帰るわ」
オレが切り出すと
「?……っ」
澪央くんがオレを背中から抱き締め、肩に顎を乗せてきた。
「明日休みだし、今夜はうちに泊まってってください」
「え、泊まる…?」
嬉しいけど、いいのかな? 妄想が止まらなくなる。初めてのお泊り? 今日、しちゃう?
澪央くんと……
ああ~~ん♡
いやん、恥っっ!!
てかどっちが喰われるんだ?
なんかこの感じだとオレっぽいぞ?
オレの肛門さまピ~ンチ!??
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