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12・バツなし三十路男、モテ期晩成?『草食系男子』に狙われる?【初めて二人で迎えた朝は編】
オレはシャワーを浴びると、腰にタオルを巻いて脱衣所を出た。
「上がったよぉ」
部屋に戻ると澪央くんは、ソファーで寛いでいた。長い足を組んでテレビを見ている。オレの裸を見たらドキドキするのかな? いやん、恥ずかしい~と咄嗟に胸を隠すオレだったが
「何してんですか」と冷めた顔で言う澪央くん。
「あはは、いやその裸見せるの初めてだから……」ってオレは女子かっ!?
と突っ込んでほしいオレの側に澪央くんがやって来る。
「ちゃんと洗ってきました?」とネコっぽい釣り目をとろんとさせて首を傾ける澪央くん。
エロいよ澪央くん!
「う、うん」
乙女のような上目遣いでオレは頷いた。やっぱオレのほうが女子みたい。
やばいオレ、澪央くんがかっこよすぎて、このままだと肛門様を開門しちゃいそう……
バージン(お尻の処女)を手放しちゃうかも。どうするんだ露句郎、このまま澪央くんの「おんな」になっちゃうのか??
いや、30年間男として生きてきた誇りを簡単に捨ててたまるものかっ。オレは男を捨てない! それにさっきオレが男役やるって決めたじゃないか!
よ~し、負けてたまるか。入社して間もない若造なんかに負けないぞぉ!
三十路を……
舐めんなよ~~ぉぉぉ??
「どりゃああああああぉぉぉ!!?」
あれ?
澪央くんをソファーに押し倒してそこから一気に身包み剥いでおっぱじめるつもりだったが、なぜかぐるりと身体が反転して天井が見えたことに戸惑うオレ。一瞬のことすぎて何が起こったのかわからず、池の中の鯉を模するオレの顔。目はポカン、口はパクパク。
「寝技でオレに勝てると思ってるんですか?」
そのオレを不敵な微笑を湛えて見下ろす澪央くん。あうう~やはり柔道経験者は強かったかぁ。無駄な抵抗でしたね。とほほ……なオレだった。
「むむ、恐るべし。“寝技の澪央”……」
「変なあだ名付けないでください」
しらけた顔で笑う澪央くんに、オレはてへっと舌を出す。と
「せっかちな人ですね」
澪央くんが手を下にずらした。オレの腰に巻かれたタオルを左右に開き、“あれ”がこんにちは♪
澪央くん?
「あっ……」
声が漏れてしまうオレ。澪央くんのお口が露句郎の“ろくろう”を~~ぉぉ! うわあ~~なにこの禁断の世界?? 美男子に自分のあれを咥えられてフェラされてるんですけど~~!? めっちゃいけないことしてる感……あ、でも気持ちぃ。
「イキそう……」
ひゃあああ、こんなのは・じ・め・てぇぇぇ~な快感と羞恥心に引っ掻き回される。なにこれなにこれなにこれやばいんですけどおおぉお~~っっ
「気持ちいですか?」
はい、きもちぃです♥
金のあれを弄りながら言う澪央くんに、意識が飛びそうなオレは半目で
「うん……」
「露句郎さんの感じてる声聞きたい。もっと聞かせて?」
「そんな声出したことないし」
そう恥ずかしがるが、それはすぐに弾け飛んだ。なんというこの背徳感と快感たるや。性感帯に寄せては返す快感の波に翻弄され、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。意識が宙を漂い、電気ショックに似たピンポイントの刺激に身体を痙攣させる。
「ぁあ……!」
「露來郎さん、もっと感じて? もっと声聴かせて? その声だけでイケるから……」
澪央くんの声も熱っぽく息が混じる。
「もっと感じて」
「澪央くん。エ、ロすぎ……」
オレの彼氏エロすぎ。オレの口から今まで出したこともない熱い息が、とめどなく溢れる。あ、優しいのが来た。と思ったら激しいのが来る。あ、あ、あ、イキそう。イキたい。イキそう。あ、あイっちゃう、イっちゃう。やばい、やばい、イ……っく……
この子やばい、駄目オレもう虜……
「!?」
――――あ、イっちゃった。
オレは果てた……
二人ともシャワーを浴びてベッドの上に寝そべった。ちなみに裸ではない。澪央くんはパジャマ、オレは借りたTシャツと短パン。
男役のオレが腕枕し――のはずだったのに逆で、澪央くんの腕に抱かれてオレは寝転がっていた。形はどうであれ、うん、男役は“オレだ”。それだけは譲らないぞ~
「澪央くん」
「ん?」
「澪央くんて、ほんと人前とギャップすごいよね……どっちの澪央くんが本物?」
その質問に澪央くんは「う~ん」と唸ってから答えた。
「露句郎さんと二人っきりの時が本物ですよ」と微笑する。
「そうなの?」
ベッドの上で美男子に極上の笑みを向けられ、オレは「おとこ」を維持できなくなってきた。どうしようオレ、どんどん乙女に近付いていく……
恐るべし、広永澪央っっ……おじさん社員にまでモテる理由がわかった気がする。
「かわいい」
澪央くんの腕がオレを抱き寄せた。
「ふぁあ~~」
朝を迎えた。て、え? 朝? 朝なの?
天井に埋め込まれた電球が点灯していない室内はまだ暗かった。ベッドボードの照明だけが光を零している。眠い目を擦りながらベッドボードの上の時計を見ると6時だった。あれから寝ちゃったんだ、オレ? 隣には澪央くんがすやすや寝ていた。かわいい寝顔しやがって~。かわいいからキスしちゃおっかなぁ♪ オレはそーっと澪央くんを挟むようにして両サイドに手を突いた。上からその顔を眺める。そーっと、そーっと自分の顔を近付けていった。ぱちっ。
「技かけられたいですか?」
「ぅわ、起きてたの!?」
いきなり澪央くんの目が開いて、オレはびっくりして首を引っ込めた。
「言いましたよね。急に襲われたら技かけちゃうかもしれないって」
「はい、言いました。すみません……」
「じゃあもうしないでくださいね」
冷たく言ってまた寝に入る澪央くん。オレは「ちょっとまた寝ないでよ~!」と背中を向けた彼の肩を掴んで、強引にこっちに向かせた。
「もう、なんですか?」
休みの日は目覚ましを8時にセットしているらしく、澪央くんはキレていた。
「だってキスしたいんだもん」
オレは唇をへの字に曲げて駄々をこねた。
澪央くんが瞼を伏せて嘆息する。
「起きてすぐのキスは駄目ですよ」
「え、なんで?」
「寝てる間に口内細菌が増殖しているので」
「……」
オレは不服の表情で抵抗するが
「拗ねても駄目ですよ」
だめだった。
「わかったよ」
すっかりご機嫌斜めになったオレだったが、起きてから澪央くんがマウスウォッシュを貸してくれたのでそれで口内洗浄完了。澪央くんも同じ方法でうがいする。これでやっとキスの許可がもらえるのか。澪央くんてやっぱ潔癖症じゃん! とオレは腑に落ちない顔でまた口をへの字に曲げるのだった。
「まだ拗ねてるんですか?」と横からふんわりオレを抱き締めてくる澪央くん。あ、またキュンキュンすることをっ! 不機嫌なオレの唇が弛んでいく。
「でも……」
澪央くんが顎をオレの肩に乗せた。鏡の前にその姿が映る。照れて頬がほんのり紅潮した自分の顔に気恥ずかしさが込み上げる。オレ、こんな顔しちゃって……澪央くんに抱き締められてる時、こんな顔してるんだ。はっずうぅ~!
「拗ねてもかわいいですよ」
「っ!?」
鏡越しに言われてオレは即死した。ハートを射抜かれて。あかん、あかんがな……
オレの彼氏は矢の名手か!? 今日だけでオレのハートはハチの巣になっているに違いない。庭野露句郎、此処に死す……ごふッ!!
オレは吐血して戦場に倒れた。む、無念なりぃぃぃ~!
――それは嘘だが……
その流れで澪央くんからご褒美。口内洗浄したオレの唇にキスが落とされた。ちょこんとつっつくだけの軽いちゅー。啄木鳥さんのご挨拶みたい♥
澪央くんとこうして、初めて二人で迎えた朝のキスは
歯磨き粉みたいな味がした。
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