「タクシー、10分くらいで到着するって」 　言ってオレは、ビジネスバッグにスマホを仕舞った。スマホでタクシーを呼んだ後、澪央くんを連れてとりあえずコンビニに立ち寄る。イートインスペースで時間を潰すことにした。白くて華奢な二人掛けテーブルが二台ある。使っている人はいなかったので、適当に奥の席を選んで澪央くんを座らせた。 　レジ横で買ってきたホットコーヒーを澪央くんに手渡す。 「ありがとうございます」と言って受け取ったカップを両手で包み込む可愛い澪央くん。猫舌なのかチビチビ飲んでいる。伏せた瞼が儚げで尊い。まつ毛長くて女子みたい。やっべ、か、かわいい～弱ってる澪央くん最高かっ！？　オレの彼氏最高～！！　 「……あの」 「ん、何？」と我に返り問い返すと 「テーブル揺れてるの気になるんですけど」と澪央くん。あ、ついはしゃいでしまった。 「ごめんなちゃい」と言って舌を出すオレだった。 　イチャイチャしたいなぁ…… 　頬杖を突きながらそんなことを思うオレ。やがてトコトコトコと山を登っていく“旅人”。人差し指と中指で動くオレの指が、澪央くんの手の上を登っていく。 「……っっ！」 　澪央くんの手が、がしっと上から覆いかぶさるようにしてその“旅人”を捕える。 　無言でオレを睨む澪央くん。目は怖いけど、唇は拗ねたようにへの字になっている。なんかかわいい。 　彼は一つ大きな溜め息を吐くと、何やらスマホを弄り始めた。 「何してんの？」と口を尖らせるオレ。 「……」 　無言で文字を入力している澪央くんが気になる。 「？」 　バリバリバリバリ！　と突然激しい振動がテーブルに鳴り響いた。オレはビクッとして大袈裟に肩を浮かせた。テーブルの上に置いた自分のスマホのバイブ音だった。小心者(チキン)のオレはその音によくびびらされる。この音怖い……。スマホを手に取ると、メールが来ていた。ん？　澪央くんからだった。なになに？ 『ホテル行きませんか？』 「！？？？」 　え、え、ええええ～～っっ！？ 　思わず叫びそうになり、開いた口の前に手のひらを当てるオレ。驚愕の目で澪央くんの顔を見るが、澪央くんは握り締めたスマホの画面に視線を向けていた。 「いいの？　てか具合は……」 　そういいかけると澪央くんが、オレを下から覗き込むように見据えてシーッと唇の前に人差し指を当てた。 『メールで』と口パクで言う。そのひとつひとつの仕草にキュンとするオレ。またかわいいかよっ！ 　オレは照れてほんのり火照った頬で 「うん」と頷いた。興奮して生唾をゴックン。指長くてきれいすぎるし、上目遣いの目がクリッとしてかわいいし、どんだけだよ！　かわいいがすぎるぜ澪央くん！ 　予約したタクシーが到着すると、その足でホテル街付近の通りまで行った。支払いを済ませ、涼しい顔でタクシーから降りる。運転手に勘繰られているような気はしなかったが、なんだかいけないことをしているような気がしてドキドキした。そこから徒歩でホテルに向かう。ホテルはホテルでもシティホテルに泊まることにした。一泊するには高いがまあ、仕方ない。愛を育むためにはお金も必要さ！ 「いらっしゃいませ」 　オレと澪央くんはとあるシティホテルを訪れた。制服姿で品の良い男女スタッフに笑顔で迎えられる。ラブホではないのでお互い顔が丸見え。なんかちょっと気まずい……。いやいやいや、焦るな焦るなオレ。堂々としてないと余計怪しまれるだろ。オレたちは別に何も悪いことはしてないんだから、堂々としてればいいんだっ！　オレはそう自分に言い聞かせてフロントに向かった。がんばれ三十路っ！　進めぇぇ～～～！　１、２、１、２……ふかふかしたカーペットの上を前進する。フロント前到着っ、そこでピタッと足を止める。涼しい顔でスッと立ち、余裕の体(てい)で部屋を取るオレ。平日のせいか子供連れはいない。来る客層は大人ばかりだった。しかし男女の……そこへ ――スラックスにワイシャツ姿のビジネスマンが二人。ツインルームに二人で宿泊。何か問題でも？ 「ごゆっくりどうぞ」 　フロントスタッフにカードキーを渡され、問題なくチェックインできた。そう、ぼくたちは“清きビジネス仲間”っっ！――という設定(笑) 「うっわ、めっちゃ部屋きれい～」 　陽気な声を出したのはオレ。ホテルなんてラブホか修学旅行の時の旅館ぐらいしか来たことがない。なんか新鮮だった。白を基調とした部屋の造りが清潔感を感じる。グレードは一番下の部屋にしたが、それなりに大きな窓も付いていて夜景も眺められる。裸でワインを片手にこの景色を見たら最高だろう。やらないけど。バスローブ着てやってみようかな♪ 「澪央くん、こういうとこ泊ったことある？」 「ないです」 　よかったぁ、澪央くんの歳でこんなとこ泊ったことあったらマジ、オレの立場はなかった……と安堵するオレだった。 「あれ、澪央くん？」 　いつの間にか澪央くんが部屋から消えていた。バスルームを覗いてみるとそこにいた。 「何してんの？」 　澪央くんは天井からぶら下がったシャワーを見上げていた。 「ちょっと……」　 　ぼんやりした声でそう言うと、澪央くんはそこから出て行った。何をそんなに眺めてたんだろう？　とオレは首を傾げた。澪央くんがさっきまで立っていた位置に立ち、それを見上げてみる。頭上から雨みたいに降ってくるやつだ。洒落てるな。また首を傾げるオレだった。 「澪央く～ん」 　部屋に戻ると澪央くんはいなかった。呼んでみるが返事がない。 「澪央くん？」 　二回呼んでも返事がなくて、三回目は不安な声で名前を呼んだ。すると 「は～い」 　やっと声がした。トイレのほうからだった。 　なかなか出てこない。具合悪いのかな？　心配になったオレは声をかけた。 「大丈夫？」 「オレのことはいいんで、先にシャワー浴びててください」 「わかったぁ。じゃあ待ってるから、すぐ来てね♥️」 「待ってなくていいですから、シャワー浴びたらベッドに行っててください！」 　なんかキレてる？　 「うん……」 　オレはしゅんとした。素直に一人でシャワーを浴びることにする。なんか怒らせるようなこと言ったのかなオレ？ 　ゆっくり目にシャワーを堪能した後部屋に戻る頃、ようやく澪央くんがトイレから出てきた。バスルームのほうへ向かって歩いていく。 「～♪」 　覗きに行っちゃおっかなぁ～らんらん♪ 　ヤンチャ心が顔を出す。オレは足を弾ませてバスルームへ向かった。ちょっとだけ♥️ 「チラッ」 　お茶目な顔で脱衣場を覗くと、澪央くんが丁度ワイシャツを脱ごうとした瞬間だった。その手が止まり、オレを睨む澪央くん。 「露句郎さん」 「はい」 「“決して覗かないでください”っっ！」 　言ってそこからオレを押し出す澪央くん。バタンとドアを閉めてシャットアウトされた。 「あっ！」 　なにそれ、鶴の恩返しかよっ！？　とドアに向かってつっこむオレ。 　いいわよいいわよ、どうせベッドに入ったら丸裸になるんだから……ぬふぬふぬふ。ニヤニヤが止まらないぜ～♥️ 　ニヤニヤしながらオレはベッドルームに引き返す。 「！？」 　ふとあることを思い出した。あ、そうだワインワイン！ 　ホテルのバスローブを着たオレは、例の夜景が見渡せる大きな窓の前に立ってみることにした。片手に持つのは残念ながらワインではなく缶酎ハイ――室内の冷蔵庫にそれしかなかった――だが気分はイケテルビジネスマン。気ぃ持ちぃ～～最高～～成功者の気分っ！ 　しばしその余韻に浸っていると 「いい眺めですね」 　背後から声がした。ガラスにその姿が写り込む。オレより約１０センチ背の高いイケメンがそこにいた。オレと同じくバスローブ姿。が、並ぶとその体型の差に思わず、神様って残酷だなと思う。やっぱ澪央くんてかっこいいなぁ。ほんとにオレが「おとこ役」でいいのかな。あ、でも長身美人モデルの彼女と160センチくらいしかない男のカップルもいるし、ありっちゃあありだよな。身長は関係ない。愛に身長なんて関係ないんだ～！　オレのれおく～ん♥️　 　オレは澪央くんをギューッと抱き締めた。 「……」 　澪央くんの手がオレの頭を愛撫するように、優しくポンポンと掌を押し当てる。この手の感触好きぃ。オレはまた『おんな』になりかける。やっべ、“女子”になっちゃう。 　澪央くんの手がオレの背中に移動した。ベッドルームに誘導される。あ～、また澪央くんのペース。年下にリードされてるしっ！　オレの手から缶酎ハイを抜き取り、ベッドボードの上に置く澪央くん。――愛の営みが始まる。 「……」 「……」 　無言で見詰められてオレの頬が熱くなる。溶かすような熱い視線がオレに注がれた。やべ、オレ妊娠しちゃったかも(ウソ)。下の方が疼いて来た。落ち着け、“息子”～！ 　ベッドに優しく寝かされるオレ。あ～ん、上手いこの子っ。歯医者さんのリクライニングチェアみたい。澪央くんが歯医者さんだったら毎日リクライニングチェアで上から見下ろされて診察されたい～ぃぃ♥️　キスされながらバスローブを脱がされていく。やばい、オレが“される側”になってないかこれ？？ 「あ、待って澪央くん！」 「……」 　澪央くんが動きを止めてオレを見下ろした。 「どうしたんですか？」 「オレが“上”になる」 「？」 「『おとこ役』だから」と付け足すと 　澪央くんがクスッと笑った。 　オレははだけたバスローブを脱いだ。これで一糸纏わぬ生まれたままの姿に。いやん♥️ 「少し暗くしましょうか」 　言って澪央くんが照明の明るさを調節し、室内が少し暗くなる。オレに背中を向けてバスローブを脱いだ。 「ゴックン」とまた生唾を飲んで覚悟を決めるオレ露句郎。澪央くんは脱いだバスローブを畳んで椅子の上に置くと、オレの隣に腰を下ろした。長い足をベッドに乗せてオレと肩を並べる。腕と腕を互いの肩に絡め合い―― 「……」 「……」 　またキスが始まった。お互い感じる所はよくわかっている。でもオレはどうすればいいのかわからなかった。男同士のって…… 　キスはやっぱり澪央くんのほうが巧かった。口内から溶かされていく。肌は女の子のように柔らかくない。筋トレしているという澪央くんの身体は引き締まっていて、それなりに筋肉も付いていた。腕や足の筋肉はもちろんのこと、腹筋も硬い。やってんなぁと感心する。 「どうかしました？」 「若い男の身体っていいなぁと思って……」 「なんですかそれ、年寄りみたい」と澪央くんが失笑する。 「この腹筋羨ましい」と澪央くんの腹筋をペチペチするオレ。 「そうですか？　大したことないですけど」 　続けて澪央くんが言う。 「露句郎さんて、マッチョ好きとかですか？」 「いやいや、ちがうちがう！」 　オレは大袈裟に首を横に振って否定した。 「別にオレ、男の身体なんか興味ないし、オレは澪央くんの“体だけが好きだから”」 　ん？　微妙になんか違うぞ…… 　これじゃ 澪央くん「ひっど～い！　露句郎さんたら、あたしの体が目的だったのね！？」 　ってなっちゃう……いかんいかん！ 　オレは言い直した。 「じゃなくて、オレが好きなのは澪央くんの体だけからっ！」 　ん？　これも違う？ 「じゃなくて、男で好きなのは澪央くんだけだから？！」 　よし、これでどうだ？ 「……」 　あれ、なんか変な空気になっちゃった。何故？ 　オレが困惑していると 「っ？」 　ふいに澪央くんがオレを抱き寄せてぎゅっとした。 「分かってます」 　耳元でそう囁かれてオレはドキッとする。オレの背中に回していた腕をゆっくり肩に移動させ、互いに見つめ合える距離まで離すと、澪央くんは困ったように目尻を下げて微笑した。 「……」 　よかった、伝わったみたい。その笑顔を見て、オレはほっとした。 　――では、続きを始めますか。 　オレは澪央くんの後ろに回り込んだ。 「絶対ゴムは付けてください」という澪央くんの要望に応えて、オレは自分のちん●にコンドームを装着した。エイズ恐いもんね。その後、指にローションをたっぷり。 「指挿れるよ～？」 「はい……」 　その声がなんか色っぽかった。 　澪央くんのア●ルに指を持っていく。ローションがすごいのかオレが巧いのか、人差し指と中指がすぐに入った。その指で入り口を広げるように円を描く。やさしく、やさしくっ♪ 「……」 　澪央くんは無言だった。 「痛くない？」 「大丈夫です……」 　語尾に吐息が混ざる澪央くん。ちょっと悩ましいんだが……！ 　やってるオレのほうが興奮してきた。 　もう入るかな？ 　今度は指を三本入れてみることにした。――あ、入った！ 「三本入ったからもう挿れるよ」 「どうぞ」 　ちょっとだけオレの方を見て澪央くんが答える。ゆけ～オレの“バットボーイ”!　なんちゃってw 「ッ！」 　後ろの門扉に緊張が走った。門が閉ざされ侵入を阻まれる。 「力抜いて」 「……」 　澪央くんは小さく震えた。窮屈なモノを無理やり突っ込まれて、理不尽なその痛みを必死で堪えているのが伝わってくる。ごめんよ澪央くん、でもちょっと我慢してね。慣れたらきっと気持ちよくなれるはずだから。 　やがてその強張りが収まっていった。 「どう、気持ちぃ？」 「……」 　最初は無言だった澪央くんがか細い声で「きも……ちい……」と洩らした。 「ほんと！？」 　歓喜したオレは腰を動かし始める。行けるとこまで行こうぜ澪央くん！　紳士なオレは痛くしない程度に加減しながら、澪央くんのア●ルを突いた。 「あっあっあっ！」 　澪央くんが卑猥な声を上げる。女の子もいいけど、こうやって若くてイケメンな男の子を啼かせるのもいいもんだな、うん……なんか萌える～オレってつくづく変態だなと自分で自分を笑うオレだった。でへっ。 「顔見てしたい」 　そう思ったオレは挿入したまま向きを替えて、澪央くんと向き合おうとした。その途端 「嗚呼っ！」 　断末魔が……澪央くんの悲鳴だった。綺麗な顔を歪めて痛がっている。 「捻ると痛いから向き替えないで！」と叫ぶ澪央くん。オレはペロッと舌を出す。 「わかったしん」 「……」 　澪央くんは俯いた。沈黙が続き――…… 「澪央くん？」 「っ……」 　俯く澪央くんが目元を手で拭う。 　澪央くんは泣いていた。 「大丈夫、澪央くんっ！？」 　泣かしてしまった、どうしよう……　 「痛くしてごめんね？」 　そう謝るしかない。 　それからオレは、澪央くんの頭を撫でて慰めてあげた。 　はあ、愛おしい…… 　オレのためにお尻を向けた恥ずかしい格好して 　後ろの門を開いてくれて 　そこにこんなぶっといモノを挿れさせてくれて 　痛い思いさせられたのにそれに耐えてくれて 　なんていい子なんだ君は！？ 　泣かせちゃったけどほんとにありがとうっっ！ 　愛しさと切なさが止まらないよ澪央くんっっ！ 「ほんとにごめんね～」とオレは愛しさのあまり澪央くんに頬擦りした。 「あの」 　澪央くんの冷めた声にハッとする。 「門がどうのこうのって、そんな解説いりませんから」 「え、門？　解説？　あ、心の声が全部漏れちゃってた？　あはははは……」 　こうしてオレは、初めて男同士で最後まで行った。最初はどうなることかと思っていたが、終わってみたら澪央くんのことが余計愛おしくなっていた。 　一つになるってほ～んと素敵な事ですね。うふふふふふ♪ 　今夜はそんな夜だった。 　ぷは～っ、今夜はワイン(缶酎ハイ)がうまいぜ～！