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16.バツなし三十路男、モテ期晩成?『草食系男子』に狙われる?【ア〇ル事情編】

 月曜日いつものように出勤した。オレと澪央くんの間に、あんなことやこんなことがあったなんて会社の人間は知らない。“一部の人間”を除いて。会社の廊下で澪央くんを発見したオレは、さっそく近付きご挨拶。 「ここ治った?」と澪央くんの“かわいい”お尻を触る。 「!?」  さっと振り向き、ギロリとオレを睨む澪央くん。怖っ! 「投げ飛ばしていいですか?」 「駄目駄目駄目駄目! 素人は受け身取れないから怪我しちゃう~」  両手と首を振りながらオレは後退る。じりじりとにじり寄る澪央くん。目が本気(マジ)で恐い。 「言いましたよね? 社内でイチャイチャ禁止って」 「はい、言いました。すみません、反省してま~す」 「本当に反省してます?」  澪央くんは怖い顔でオレを見据えると、がしっとオレが着ているシャツの襟と肘の辺りを掴んできた。 「え、なにこの手? もしかして技かけようとしてる?」 「かけていいですか?」 「やめてやめてやめてやめてやめてやめて! 痛いの嫌い! 暴力反対~~!!」  この子冗談通じない系か? マジで命の危機ぐらいに身の危険を感じていると…… 「おい、何やってんだまた!?」 「眼鏡さん!」  おお、まさかの助っ人が!?  オレは“眼鏡さん”に視線を送り、助けを請うが 「日浦だ。いい加減人の名前を覚えろ!」とピシャリ。 「すみません」  ――興味がない故(心の声)  日浦さんはオレを横目で睨んで「チッ」と舌打ちした。 「またセクハラされたのか、広永?」と澪央くんの肩に手を乗せる。澪央くんは俯いたまま黙っている。すかさずオレは反論した。 「違います! オレが今投げられそうに……」 「お前に聞いてない。広永、大丈夫か? 変なことされたら言えよ?」 「ちょっと、変なことってなんですか!?」  失礼な、人をまるで変質者みたいに……  腹を立てるオレを他所に、眼鏡さんこと日浦さんは澪央くんにコソッと言った。 「こいつお前のこと狙ってるみたいだからな、なんかあったらオレに相談しろ。助けてやるから」  あんたのほうが危険だわっ! 「あっちで話聞いてやるから」と澪央くんの肩を抱く日浦さん。あ、連れてかれちゃう!? 「澪央くん……」  行かないで。  子犬のような目で澪央くんを見るオレ。円らな瞳を潤ませるチワワのように。く~ん。 「日浦さん」  澪央くんが開口した。 「ありがとうございます。もう大丈夫です」と言って日浦さんの手を退ける。澪央く~ん!?  日浦さんは 「そうか?」と納得いかない顔をしたが、渋々いなくなった。  もう来ませんように……合掌w 「ふ~~っっ」  危なかったぁ。やっと二人きりになれて、オレは安堵の息を吐き出した。危うく澪央くんが“眼鏡さん”に連れ去られるとこだった。危ない危ない!  やっぱりあの人は要注意だ。絶対確実に澪央くんを狙ってる。澪央くんにも注意するように言っとこう。  後にわかったことだが、“眼鏡さん”は柔道の有段者らしい(澪央くん情報)。で、あのガタイか。納得。て、余計やばいんだが!?  週末にまた澪央くんちにお泊りすることになった。この前と同じコースで、会社帰りにカラオケボックスに寄っていく。  オレが歌うと澪央くんはまたエロくなった。まるでマタタビを与えられた猫のごとく、オレの歌声が澪央くんを虜にし、肩を抱かれ終始密着状態のオレ。オレの歌声を聴くとエロが解放されるのか、澪央くん? じゃあエッチしたい時は歌ってみようかな……ぐふふ、とオレは密かに企むのだった。 「なんですか?」  店を出て駐車場へ向かう途中、オレが歌の1フレーズを口ずさむと澪央くんが笑った。隙ありっ!  オレはすっと手を伸ばして澪央くんの手を握った。 「もう~」と言って澪央くんがオレを軽く睨む。でも今度は嫌がらなかった。よっしゃ、この方法使えるww オレは「れおくんとイチャイチャする♥」その攻略法を発見した。  ファミレスで夕飯を済ませてから、オレの車で澪央くんちへ。部屋に入るとすぐ、澪央くんが部屋着を貸してくれた。ハーフパンツらしきもの――オレが履いたら膝下丈になる――とTシャツの楽な格好でソファーに座り、夏の夜長をまったり過ごす。 「澪央くん足長いんだね?」  座るとその差がよく分かった。膝の位置が全然違う。膝下も膝上も長っ! 指も長くて綺麗だ。首も。その分オレより背が高いみたいだった。かっこいいなぁ、澪央くん。これ絶対逆だよな。どう見たってサイズ的に、オレのほうが抱かれる側だよな……  そうは思っても挿れられることには抵抗があった。やっぱりオレは「オンナ(役)」にはなれないらしい。  そんなことを考えていると 「オレ、露句郎さんのサイズ感好きですよ」 「え?」 「ちっちゃくて、かわいいです♥」 「!?」  どどどどどっひゃああああああ~~~~!!??  かわえええええぇぇぇeeee~~~~!!!  今このオレに「かわいいです♥」とハートマーク付きで言った時の顔写メしてインスタにアップして世界中の人に自慢したいの如しっっ!! なにこの子、なにこの子、本当にオレのカレシ!? オレがカレシで良いのですか神様? 助けてください~~? もしかして今日オレの命日!?? うわ~~三十路でDEAD ENDはいやなんですけどぉぉぉ~~!?? 「露句郎さん」 「え?」 「またなんか妄想してます?」  澪央くんが涼しい顔でオレの顔を覗き込む。 「やだなぁ、妄想だなんて……」  しないわけないじゃないか。ふっふっふっ。  下心を隠すオレだったが 「“咥えっこ”しましょっか?」  澪央くんが獲物に狙いを定める野生動物(ネコ科)の眼でオレを捕えた。 「え、咥えっこ? どういうこと?」  オレはたじろぐ。覆いかぶさってくる澪央くんが、もはや肉食動物にしか見えなくなっていた。 「ハテナが多い人ですね」 「無知なんでスマソ……」  澪央くんは苦笑混じりに嘆息すると、やれやれというように説明した。 「オレが露句郎さんのフェラするんで、露句郎さんもオレのフェラしてください」 「ああ、そういうことか……」  オレは一瞬納得するが、すぐに「あれ?」と思って首を捻る。 「って、え? オレもするの?」 「いやなんですか?」 「いやってゆーか、ふつうされるほうがするもんじゃないの?」 「されるほうは『ウケ』ね。オレ、基本的にそのスタイルですから」 「え?」 「セックスあまり好きじゃないんで」  涼しい顔で澪央くんはそう言った。  ええええええ~~~~っっ、何ぃぃ~~~~セックスが好きじゃないだとぉぉぉぉ!? やっぱ草食系じゃないかっっ!?   そういう男が増えてるから少子化が進むんだ! このままだと日本人が絶滅するぞ!? と心の中で叱責するオレ。  青年よ、生殖本能はどこへ行った??? 男同士じゃできないが……  それはともかく、健全なる男子がセックス好きじゃないとか理解できないんだが……  こういうタイプは強く言っても駄目かも。よし、じゃあ――オレは上目づかいで澪央くんを見詰めた。 「フェラだけじゃなくてちゃんとしたやつしたい♥️」とぶりっこみたいに甘えてみた。さっきオレのことかわいいって言ってたし。どうだ、イケるか? ついでにウインク♥  澪央くんの反応は 「オレ、アナルセックス好きじゃないんで」  マジか? だがオレは諦めない。 「あんなに気持ちよさそうだったじゃん」とゆっさゆっさと尻を上下に動かして、ソファーのマットを揺らした。軋んだスプリングがギシギシ音を立てる。澪央くんは無言でそれを眺めていた。オレはさらにしつこくマットを揺らして澪央くんを誘惑した。 「なんでなんで、しようよ~」と口を尖らせて駄々を捏ねる。 「急に言われてもできません!」  澪央くんがピシャリとそう言い放ち 「なんで?」  オレは首を傾げてポカンとした。  澪央くんがまた溜め息を吐く。今度は盛大に。彼は呆れたように、ゆっくりと一旦瞼を閉じた。 「知らないんですか? アナルセックスってすぐにできるものじゃないんですよ。準備するのが大変なんですから、こっちの都合も考えてください」 「そうなの?」 「そうなんです!」と澪央くんが切れる。 「もう~こういう知識のない人が安易にアナルセックスしたりするから、ゲイは汚いなんて言われるんだ……」  澪央くんは額に手を当てて、心底疲れた顔で嘆息した。 「ごめんなさい」  オレはしょぼんとした。だってそんなに大変なんて知らなかったんだもん……   しょうがないじゃん、と口をへの字に曲げて拗ねると、澪央くんがクスッとしてオレの肩に腕を回した。顔を寄せて 「じゃあこうしませんか?」と切り出す。 「今度はオレに “やらせて”ください」 「え……?」  見えない汗が何本も筋を作ってオレの顔を流れた。  「セックス好きじゃないんじゃなかったっけ?」  すると澪央くんはニヤリとした。瞳が邪悪に光る。怖い。 「“やられるほうはね”」  “やられる”が“殺られる”に聴こえてしまい、オレは思わずゾクッとした。  それも束の間 「あっ……」  声を漏らすオレ。澪央くんの手がオレの股間をタッチした。こっちを見てニヤリとする澪央くん。邪悪な形に歪んだ釣り目が、エっロ!  「露句郎さん、かぁわい♥」  やばい、また澪央くんのペースに持ってかれる! 堪えても吐息が漏れてしまうオレ。いきなり“そこ”をおイタするのは反則ですよ、澪央くん……  このままではいつか澪央くんに抱かれる。そしてオレが「オンナ」に……あかん! 気持ちぃ~~  澪央くんの手が、オレの股間を擦りながら反対の手で器用に胸の突起を撫でる。触れられた所が過敏になるにつれ、だんだん瞼が下がってきた。もう、駄目かも…… 「澪央くん」 「なんですか?」 「その器用さならDJになれるよ」  吐息を漏らしながらオレが呟くと、澪央くんは面白そうに笑った。胸の突起をコロコロしていた指先が唇に変わると 「あ……っ」  またオレの口から声が漏れた。柔らかくて密着度も高くて、一気に感度が上がる。吸い付かれて意識まで持っていかれそうになった。身体の中心が熱を帯び、じわりと先端を濡らした。うなじに手が移動して、襟足の髪の間に指が入る。オレは身をくねらせた。そこも感じやすい場所だった。それを知っている澪央くんが、さらに唇と舌でそこを攻めてくる。駄目だ、抗えない。完全に澪央くんの術中に陥った。いつの間にかハーフパンツもその下のトランクスも下ろされ、露句郎のろくろうは顔を出していた。その棹が澪央くんのお口の中に潜る。社内のアイドル澪央くんのお口にオレの棹が~さおや~さおだけ~ろくろうの~さおだけ~♪ 巧みな“しごき”にオレはメロメロ。 「ぁああぁ」  口の端から涎を垂らした淫らな姿で果てていく。澪央くんには敵わない。オレはやっぱりこの“偽草食系男子”にほしいままに喰い漁られる運命なのか? はあ、き も ち ひ……二、三回官能のビッグウェーブが来た。オレもまだまだ若いなww  また捕食されてしまった。シャワーを浴びた後、ベッドで澪央くんと添い寝モードに入っていた。  ほんとにしないんだね、セックス。一応性欲は吐き出せたけど、澪央くんは本当にそれでもいいのかちょっと心配になる。オレは澪央くんの股間に手を伸ばす。と 「今度は露句郎さんが“ウケ”ですからね?」  こっちに顔を向けて澪央くんが言った。 「“ウケ”って?」 「されるほう、ですよ」  ポカン顔のオレに澪央くんがそう説明した。 「マジで?」 「やり方教えますから、ちゃんと準備しといてくださいね」  不適な笑みを浮かべる澪央くん。なんかなんか、これやばくね?  露句郎、ファックミーの危機!??  そんなわけで澪央くんから準備の仕方をレクチャーされることになった。  浣腸、シャワ浣などのやり方を教わるが 「えーっこんなことやんの!?」         「めんどくせ~!」   「もう無理~!」  「だあああああーーーー!!」  現実を知ればしるほどそれをやるのが嫌になった。頭を抱えて苦悶するオレに澪央くんが言う。 「じゃあ別れましょう」 「え、そんなあっさり?」  フラれたのオレ? 今、フラれたの、もしかして?  思考が付いていかなかった。 「本気?」  恐る恐るそう尋ねると、澪央くんは静かに頷いた。深刻な表情で言葉を紡ぐ。 「オレ本当はウケじゃないんです。露句郎さんの前に付き合ってた人は、みんな女でした。だから本当は“タチ”なんです」 「“タチ”って?」 「“オトコ役”のほうです」と軽く睨まれ、オレは「あ、そっちね……」と肩を竦める。澪央くんが話を続ける。 「でもオレ、露句郎さんと付き合いたいから、我慢してウケになってました」 「え、じゃあ澪央くんゲイじゃないの?」 「わかりませんけど、男の人とセックスしたのは露句郎さんが初めてです」 「いやん♥」とオレは恥ずかしそうに両手で頬を包み込む。 「ふざけないでください」 「ごめんなちゃい」  事情を聞いたらなんかオレだけ特別みたいでちょっとうれしかった。澪央くん、そんなにオレのことを……フラれちゃったけど。 「露句郎さんのほうこそ、そろそろノンケのふりはやめてカミングアウトしたほうがいいんじゃないですか?」 「え?」 「まさかこの期におよんで、まだ自分のことノンケだと言い張るつもりですか?」 「え、だってオレは」 「オレ以外にも男の人とエロいことしてますよね?」 「え~っと、どうだったかな……」 「往生際が悪い人ですね。 あなたは……」 「あなたは?」 「ノンケではありません」  じゃあなんなんだ?  オレは  オレはオレはオレは――――  海理ぃぃ~~~~ヘルプ!  オレは何のカテに当てはまるのか教えてくれぇぇ~~!!  こうしてオレは、しばらく羊を1000匹数えても眠れなくなることを覚悟したのだった。

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