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18.バツなし三十路男、非モテ男子の憂鬱??
六月になった。季節で言えば梅雨のはずだが関東はまだ雨知らず。曇ったり晴れたり雨が降りそうで降らないもや~っとした天気が続いていた。はあ……憂鬱だ。
「なあに溜息なんか吐いてんだ、三十爺?」
頭にポンと手が置かれた。犬を触るようにポンポンしてくるのは真の友で同僚の海理だ。デスクの机上に頬杖を突いて黄昏るオレを見てちょっかいでも出しに来たのだろう。
ここはオレが所属している営業部のオフィス。今は休憩時間中。男性社員はオレと海理以外、席を外している。一部は外回り、あとはだいたい喫煙所でスパスパやっている。うちは内勤7営業3ぐらいの割合なので、だいたいいつもこんな感じだ。
「爺って……」
オレがげっそり憔悴気味の顔を上げると、海理が爽やか好男子スマイルをしていた。ちっ、リア充め! と目を細めて睨んでやる。
「いいよな、彼女がいる奴は」
ふてっとした顔でそうぼやくと、オレは脱力して机上に腕から頽れた。海理が空席になっている隣のデスクに座り、頬杖を突きながら不貞腐れ顔のオレにぼやく。
「こっちはこっちでいろいろ大変なんだぞ」
「なにが?」
「ははは」と笑って誤魔化す海理をオレはまた睨んでやった。
「どうせ、くっだらないことでケンカして、かと思ったらすぐ仲直りしてイチャイチャするバカップルみたいなことやってんだろ?」
「あ、バレちゃった?」と言ってチロッと舌を出す海理。ファックユーっ。オレはにわかに殺意を覚えた。
「ただのノロケかよ」
やってらんね~。オレは呆れてそっぽを向き、寝に入る。が、海理が横から凭れかかってきた。頬に頬がペタッと触れる。名付けて「頬ペタ」
「ごめんごめん! 怒んないで。ぎゅ~~っ♥」と言って横からオレに抱き付く海理。
「なん……だよ?」
『頬ペタ』は慣れてなかった。頬が熱くなる。オレはなんか変な感じがして口籠る。
「仲直りの『ぎゅー♥』」と無邪気に言う海理。
「なにが『仲直りのぎゅー♥』だ! これも彼女にやってんのか?」
冷めた声でオレが言うと、海理はすっと腕の力を弛めた。
「やるかよ、こんなこと」としらけた声で言う。
「照れんなよ」
「照れてねえよ!」
何故か少し切れてるみたいな海理をからかうのが楽しかった。
て、高校生かオレたちはww
いつの間にかまたオレは、さっきまで自分が鬱々としてたことも忘れていた。海理のおかげだな。うん、やっぱいい奴だ。こうやっていつもオレに構って、ふざけてじゃれ合っているうちにいつの間にか嫌なことも忘れさせてくれる。愛してるぜ、海理♥カッコ笑い。
「海理そろそろ退いて、重い」
「元気出た?」
「出た出た」
「ならよろしい」
言って海理がオレに凭れていた身体を退けた。
「ほんと仲いいよね? 付き合っちゃえば?」
「こいつ彼女いますよ」
先輩女性社員“まーこさん”に冷やかされてオレが首を振ると
「ええっ、そうなのぉ」
まーこさんの顔色が変わった。なんか残念そうに見える。何故? するとまーこさんが他の女性社員に呼び掛ける。
「聞いて聞いて」
「何何ぃ」と集まってくる女性社員たち。
「絵戸くん彼女いるんだって」とまーこさん。
「嘘」
まじまじと何故かオレの顔を見てくる女性社員たち。いやいやいや
「オレじゃないですよ!」と両手と頭を振って激しく否定するオレ。
「意外~」とまーこさん。
「庭野くんとできてるのかと思った」
「そうそう思った思った」と頷き合うまーこさんとその友人かおるんさん。
「そんなわけないでしょ!? そっちのほうが“意外”だわ!」とオレは反論した。脳みそ腐ってんだろ、この先輩 たち!?
「残念だわ、あたしちょっと狙ってたのに」
「え?」
「あたしも」
「え?」
「絵戸くんって背は高いし、意外と綺麗な顔してない?」
「え?」
「やさしいし、充分モテ要素あるよね」
「え?」
「面倒見いいしね」
「そうそう、後輩だけどそういうとこかっこいいよね」
「わかる~」
「え? え?」
「でも彼女いるんでしょ?」
「がっかりした~」
「まつももさん、あんた結婚してるから駄目でしょ」
「あ、忘れてた」
「忘れるなよw」
「旦那かわいそう~ww」
何? いったい何が起こってるんだ?
オレは混乱した。
「お前って結構モテるんだな?」と海理に囁く。
「さあ」とおとぼけ顔で、肩を竦めて首を傾げる海理。
「ちっ」とオレは舌打ちした。
「殺していいですか?」と憎々しげに海理を睨む。この無自覚モテ男め!
そうこうしているうちに休憩時間終了――
くそっ、あと10センチ、いや7センチ背が高かったらオレだって……! と悔しがるオレだった。
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