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19.バツなし三十路男、「飢えた狼は穴を掘る!?」の巻
「オレも彼女ほしいなあ……」と歩きながらポロりと漏らすオレ。仕事が終わって駐車場に向かう途中だった。隣を歩く海理がクスリと笑い、「なんだよ~」とオレが睨む。
「ところでお前の彼女って何歳?」
「なんで?」
「“なんで?”」
オレは目を細めて訝るように海理を見た。
「怪しい……」
「何がだよ?」と海理が困惑する。
「もしかして」
「もしかしてなんだよ?」
「もしかしてお前の彼女って……」
「もったいぶるなよ、早く言え」
「すっげー年上で……80過ぎのよぼよぼのおばあさんとか?」
「は?」
「デートはお揃いのちゃんちゃんこ着て、仲良く手繋いで地蔵通り商店街を歩き、饅頭食ってそば食って最後はお寺に寄ってお参りするのがお約束コースで、それを知られたくないから彼女を紹介するのをいつもしぶってるとか?……それか人妻と不倫? いやいやいやそれは駄目だぞ。芸の肥やしになるとかなんとか昔の人は言ってたみたいだが、芸人じゃないお前は肥やしになんかならないからな? 絶対不倫は駄目だぞ?」
「あのさあ、ろく」
「ん?」
「オレに彼女がいるって認めたくない気持ちもわからないでもないけどさあ」
「……」
「その発想は痛い」
「ズキン!」擬音が口から零れてしまうオレ。哀しい……
「焦るな、ろく」とオレの肩を抱く海理。
「大丈夫、そのうちお前にもきっといい人が見付かるって」
「な、なにを根拠にそんなことを? てか、そのうちっていつだよ。オレもう三十路だぞ? 三十爺『み・そ・じ・い~』なんだけどっ!」
「ははは三十爺ぃ」
「笑うなリア充!」
「悪ぃわりぃ」と軽く交わす海理。ムッとして睨んだオレを「まあまあ」と宥める。
「お前にはお前の良さがあるしさ、わかってくれる人はきっといるって。な? だからあんまり心配するなって」
「いや、するでしょ普通に? だってそろそろ年齢的にやばいでしょオレ?」
「そんなの気にするな」
「……っっ」
納得がいかないオレの手を海理が握った。
「オレはお前のいいとこいっぱい知ってるよ」
「え?」
そのまま海理がオレと手を繋いで歩き出す。こいつ、めちゃめちゃいい奴やん~~!? ちょっと感動。
「ううっ、オレ泣きそう……!」
「泣け泣け♪」
「好きになりそう……」
「え、まだ好きになってなかったの?」
「バ~カ」
「ア~ホ」
言い合ってじゃれるオレと海理。
「オレたちラブラブだな?」
「なんでだよ」とオレがどつく。くっだらね~、けど楽しいww
「で、オレのいい所って何?」
「う~ん」と唸ってから海理が言う。
「純粋で~」
「純粋で?」
「混じりけのない天然のバカなとこ」
「は? それいい所かよ!? むしろ欠点だろ」
「うむ」
「うむじゃねえよ!」
「あと……」
「あと?」
「オレのボケにいつも付き合ってくれるとこ」
「あとは?」
「あとは……」と考え込む海理。
「て、もうねえのかよ!」
「あるある」
「なんだよ?」
「場を和ませるのが得意なとこ?」
「そう? 和ませるどころか最近おばさん社員(眼鏡のおじさんも)に睨まれたり、毒舌吐かれることが増えた気がするんだけど、気のせい?」
「気のせい気のせい」と手を振って否定する海理。
「それか“愛”だな」
「愛?」
「うん」と海理が頷く。
「お前が面白いこと言って笑わせてくれるのを期待して、ツッコミプリーズで睨んでるとか」
「そんな感じじゃなかったが……てかオレは芸人かっ!?」
「え、じゃあ何?」
「しがないただのサラリーマンだわ!」
「オレと一緒じゃん?」
「そうだよ!」
大仰に目を瞠って感心したように海理が言う。
「やっぱすごい」
「なんだよ急に?」
「オレのボケにこんなに速攻ツッコミ入れられる奴なんてお前だけだ」
「たいしたこと言ってねーけどな」
「そこが天才」
「は?」
「自覚してないとこが逆に天才」
「褒めてんの、もしかして? なんかちっともうれしくないんだが……逆にディスられてる気分」
「くくくく……」
「何笑ってんだよ?」
「くくくくくくくく」
「なんだよ?」と海理の肩を掴んで揺さぶるオレ。
「ほら和んだ」
「え?」
「お前と話すとマジ楽しい。オレはいっつもお前に和まされてるよ」
言って好感度1000%のくしゃっとスマイルをオレに捧げる海理。ま、眩しい~キラッキラスマイルが眩しい~!! 西日を背にしてこのスマイル、映画の1シーンかっ!?
なにこいつ。めっちゃ……イケメンっっ!??
「……」
顔から滝のように汗が滴るオレ(想像)
こいつこんなイケメンだったっけ??
「惚れていい?」
「断る」
渋い声で拒否る海理。
「ははは」
「はははは」
西日差し込む夕暮れ時、声高らかに笑う陽気なオレたちアラサーw。二人仲良く手を繋ぎ、スキップランラン♪しながら歩いて行くオレと海理だった。今日も平和だなあ……
家に帰ると着替えながらテレビを見た。「この子最近よく出てるなあ」と二十歳前後の若い女の子を見て思った。「かわいいなあ」と呟くオレ。あ、この子も!?
その女の子の横に同世代の若い男性がいた。切れ長で大きな瞳にシュッとした顔。澪央くんみたい……。ふと彼の名前が浮かんだ。今の子って顔小さいし、足なっが! こういうのがモテるんだろうなぁ。似たような男性芸能人をテレビでよく見かける。オレのような中背で円らな瞳のフツメン(平均的な顔)ブーム来ないかなあ……はあ、フツメンはどこにでもいるから無理か、と即諦めるオレだった。
女の子に目線を切り替える。この子なんていうんだろ? 番組表を見て名前をチェックした。
『伊部リコ』――いべりこって……豚かよっ!? でもかわいい。それは確かだった。全然太ってないし。一応テレビのチェックリストにそのタレント名を登録しておく。
女の子がかわいいと思うのは今に始まったことじゃない。一時的に男性の澪央くんに心を奪われていた時期はあったものの、他の男性にまでそういう感情は一切芽生えたことはない。だから今の自分は、普通にかわいい女の子が好きな、本来の姿に戻っただけ。まあ、いろいろあったけど、ゲイになったわけではなかったってことだろう。澪央くんとだって、告られてなかったらそもそも付き合ってなかったし、性の対象にもならなっかった。間違いなく告られる前までは、何も意識していなかったし。なのにあんなことまでできちゃうオレって……う~~~~ん、ただの変態?
海理に聞いてみることにする。困った時は海理にライン。これオレだけの常識ww
ろく 『オレって変態?』
かいり『なんだよ急に?(;一_一)』
ろく 『ゲイじゃないのに男とエロいことできるのって変態じゃない?』
かいり『・・・・・』
ろく 『なんか言って(;´Д`)』
かいり『変態』
ろく 『やっぱり(;´Д`)』
かいり『って言ったら納得する?』
ろく 『(;´Д`)?』
かいり『男とエロいことなんかゲイじゃなくてもできる奴はいるよ』
ろく 『そうなのΣ( ̄□ ̄;)』
かいり『飢えた狼は穴を掘る』
ろく 『なにそれ格言?』
かいり『そんなのないわ』
ろく 『ないんかい!』
かいり『若い頃好奇心で友達同士でやる奴はいるし、そんな珍しいことじゃないでしょ』
ろく 『嘘! 聞いたことない!Σ( ̄□ ̄;)海理はあるの?』
かいり『オレはない』
ろく 『え? じゃあなんでそんなこと知ってるの?』
かいり『周りにそういう奴がいた』
ろく 『へー男子校だっけ?』
かいり『共学』
ろく 『女子いるのに? やっぱそいつゲイじゃね?』
かいり『いや、彼女がいる奴もやってた』
ろく 『嘘!? そいつヤバくね? それかふつうにバイじゃね?』
かいり『本人たち曰く、女はどれくらい気持ちいいか試したかったんだと』
ろく 『なるほど~( ; ゜Д゜)』
『ってなるほどじゃないわ!!』
かいり『実際にやらなくてもよくあることじゃん。女は男の云十倍気持ちいんだってって会話ぐらい』
ろく 『それならあったかも(;・ω・)でも男に挿れられたいと思ったことはないな』
かいり『だよなww』
『もう遅いからオレ寝るわ』
ろく 『ゴメン付き合わせて!(´д`|||)おやすみ』
かいり『気にするな:-Oおやすみ』
友達同士でとかあり得ないんだが。世の中にはオレより変態が結構いるんだな……とひとまず安心してオレは眠りに着いたのだった。
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