潮崎さんと土曜に会う約束をして、一緒に例のビアガーデンにやってきた。はあ、なんか緊張するぅぅ～……。 　ビルの屋上に設けたウッドデッキに丸いテーブルがいくつも並んでいる。そこにでかい肉の塊やビールを並べて、集まった大人たちがワイワイしながら飲食を楽しんでいた。トロピカルなヤシの木？　みたいなのも飾られている。そのきらびやかな空間に、素朴な青年気質（自称）のオレはちょっと気後れしてしまった。 「こういう所にはあまり来られませんか？」 「あ、はい。初めてです……」 　潮崎さんはその空間が似合っていた。今日も変わらずカッコイイ。ポロシャツにセンタープレスのパンツが、まるでテニス選手のオフのよう。筋肉質だからカッコよく決まるんだろう。ひょろひょろだと日曜のサラリーマンになってしまう。その上にさらりと羽織ったジャケットが、ひょろリーマンのオレには到底着こなせないであろうおしゃれ上級者感が出ている。はあ、好きぃ～抱いて♥ 「なんかこういう所ってブラピみたいなイケてる大人が集まる場所ってイメージがあるんで、オレみたいな地味な庶民は行きづらいっていうか」 　オレが持論を言うと「はっはっはっ！」と潮崎さんが白い歯を見せて笑った。 「全然ここはそんなことないですよ。僕みたいなのも来てますし」 　オレは、いやいやいや、あなたこそイケてる大人日本代表でしょっ！？　と心の中で突っ込んだ。 　事前予約してるとのことで席は確保されていて、そこに勝手にメニューも運ばれてきた。おお、行動がスマート。できるオトコって感じ～！？　にまた惚れ直してしまうオレだった。　 「匡(たくみ)！」と突然潮崎さんに向かって、親し気に話しかけてくる女がいた。髪をアップにして、サイドと襟足からゆるくカールしたおくれ毛を垂らしていてなんか色っぽい。 「お知り合い……ですか？」と潮崎さんに尋ねると 「元カノ」と言って潮崎さんが苦笑いした。 　その元カノがオレを睨んできた。え、なんで？　とオレは困惑した。恐るおそる「こんにちわ～」と言っても無視され、額から嫌な汗が流れるオレ。てかまだ見てるし……！？ 　無言の圧力と意味深な視線にますます焦るオレ。 　え、もしかしてオレ、この人に敵視されてる？　いやいやいや、オレ男だし、それはないか…… 　すると元カノはテーブルの上にあったカットチーズを一つ摘まみ、それを「あーん」と言って潮崎さんの口元に持っていった。おい、初対面のオレがいる前で……？　だ、大胆だなっっ！？　とオレが唖然としていると 「……」 　潮崎さんがそのチーズを元カノの手から奪い、自分の口に運んだ。飲み込んだ後元カノに向かって、小声で「空気読めよ」と窘める。 「っ！」 　元カノが怨念みなぎるような顔でオレを睨んできた。 　こっわ！　と思わず叫びそうになるオレだった。 　元カノが諦めてやっといなくなったのを見計らってオレが切り出す。 「潮崎さん、ふつうに彼女いたんですね」 「え？　そんなモテなそうに見えます？」と潮崎さんは目を丸くした。オレはあわあわと手を振ってそれを否定する。 「そういう意味じゃ……！ 　そりゃ、付き合った女ぐらいいますよね？　オレでもあるし」と誤魔化して苦笑いするオレ。まったく何言ってんだオレは……と反省した。 つづくｗｗ