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第3話 12月24日

俺は白目を剥いていた。 この辺で一番高いビル。上半分がホテルになってる、その最上階。 ひときわ華やかにイルミネーションで彩られた、レストランのエントランスで俺は白目を剥いていた。 「男二人っておかしいだろ! 今日クリスマスイブだぞ!」 一応声のトーンは抑えておく。 「おかしいか?」 「店ん中、カップルしかいないぞ!自信あるよ」 そんな中に飛び込む勇気はないぞ。 「家族連れとかいるだろ?もう時間だから入るぞ」 ――いや、いいんだけどさ… お前に羞恥心はないのか? こんなとこ、スゴい早く予約しないとだよな。 あっ、女の子と行く予定が無くなった…とか?これだーーー! うん、これは慰め案件だな。 まぁラッキーってことにして、クリスマスツリーやらプレゼントのオーナメントなんかで飾り付けられた中を、大人しくついていく。照明が押さえられた中、各テーブルには本物のロウソクの炎が揺らめいている。 「いつも飯作って貰ってるから礼がしたくて」 そんな事を言うイケメンに、周りの席からチラチラ視線が向けられる。 こいつでかいし目立つな~後ろに居るのが俺って、いたたまれねぇ~ そこのお姉さんの俺を見る、なんだあれって顔、そうですよね~分かります。こんな日のこんな場所で、でかいイケメンとフツメンの俺。 「でも材料費いつもお前じゃん」 とりあえず平静を装う。 「いやうまいもん食わせて貰って感謝してる。体調もいいし仕事も調子いい。今日は奢らせろな」 振り返る笑顔がまぶしい・・・くずおれそう。 案内された席は窓際。全面硝子張りの角にあった。最上階から見下ろす、車のライトとテールライトの列。はるか遠くまで広がる街の灯り。すぐ近くのビルにもクリスマスのイルミネーションが見える。あっちのビルもカップルだらけなんだろうな。こっそりため息をつく。 外を眺めて呆然としていると、ニヤニヤしているお前と目線が合う。 「――っお前、いつもこんなとこきてんの?こーやって女の子落とすんだろ…」 腹立たしい!さぞかしモテるんだろうな…と、ちょっとへこむ。あ、でもふられたから俺と来てるんだよな。多分。 「こんなとこ初めてに決まってるだろ」 え・・・そうなんか。ん? 「お前、こんな準備しといてさ、振られたんだろ?」 ニヤリとちょっと悪い顔。 「そんなわけないだろ」 ・・・・・・??? 訳が分からん。準備したけど誘えなかったとか? まあ、俺が慰めてやるよ! もう、深く考えずに飯を楽しむことにした。せっかくお前と美味しい物食べるんだから楽しまないとな! コースを食べるヤツの所作が綺麗なのが、妙に腹立たしかったりしたけど、お前と喋りながら食べる料理は、どれも最高に美味しかった。 デザートが運ばれた頃にやっと場にも慣れて、ほっと肩の力が抜ける。もうマナーとかいいよな? フォークもうこれだけだしな。 俺の選んだデザートは王道のショートケーキ・・・だったはずなんだけど。  運ばれてきたのは、ケーキにしては随分大きな平皿。真ん中のへこみには薄く水色のゼリー。 その縁に煙突のついたログハウス。これがケーキだよな。たっぶり被ったクリームが大雪っぽい。その回りを苺のサンタクロースやチョコで作られたトナカイ、雪を被ったもみの木なんかが囲んでいる。湖の周りのログハウスとサンタさん達、てジオラマみたい。 「これ、可愛い女の子がさ、かわいい~~とか言って写真撮りまくるヤツだな!ハハハ・・・ハハハハ」 俺は可愛くないけどな! 俺は食うぞ!写真なんか撮らないからな! 正直恥ずかしい。耳が熱い。ケーキに罪は無い。さっさと腹の中に収めるのが一番だな。 とりあえずログハウスの屋根を攻略する。気分は怪獣だ。脳内でズカーンとか擬音を立てながらフォークを突き刺す。屋根はラングドシャにクリームが乗ってるみたいだ。 「んーーー生クリーム旨っ!」 俺ホイップクリームってのはちょっと苦手なんだよな。乳脂肪100%の甘さ控えめが好き!そうそうこんな味! 濃厚だけど後味すっきり~ ちなみにあいつは、ザッハトルテ。 四角い皿にケーキでソリが作ってある。トナカイとかソリの飾りもチョコ製。何種類かのベリーと柊をかたどったクッキーが添えてある。こっちの方がシックだ。 そっちも旨そうだな…と顔を上げたところで、目が合う。 何おまえの顔。慈愛に満ちてる? 子猫と子犬とヒヨコのモフモフ画像でも見てる?って顔。 つい俺の両後ろをキョロキョロ見回しちゃったよ。モフモフ大好きだからな。もちろん何もいないし、何ならカップルしかいないのを再確認して半眼になる。 目線を戻すと口の片端が上がってる…何ニヤケてやがる! 「何ニヤケてんだよ!」 うわ! 悪態をつくつもりが声震えてるじゃん。恥ずかしい… 「旨い?」 「最っ高に旨いに決まってるじゃん。お前のも旨そうだな! 俺のも食って良いからあとで一口な!」 やけくそ気味に雪を被ったもみの木を口にいれる。ん、抹茶チョコのフレークを針葉樹みたいにしてあるんだ・・・面白いな! 「良かった。」 静かな声。 「いつも美味しいもん作ってくれてありがとな。お前のクリスマスメニューも食いたかったけど、今日は礼がしたくて。」 突然の真面目なトーンに、喉がギュッと締まって、煩く暴れだした心臓を押さえつける。 「いや、俺の方こそありがとうだって! こんなん始めてだし! 男二人ってのが面白すぎるけどな!」 どうにか声を絞り出す。 こっちを見つめる目尻がふっと下がって、一瞬はにかむような顔になった。見たことない表情…目線が泳いだ後、俺の目を見た。 「お前が好きなんだ…」 「ん“っ…グフッ。グフッ、グッ」 ――何…。何言ってんの… 鼻にクリーム入った?やば、鼻の奥痛い。クリームのせい。クリームのせい。 「グフッ。グフッ」 突然何言ってるんだ! ヤバイ。目頭が熱い。目の縁に水が溜まる。 おさまれおさまれよーあーーー決壊すんな~~ こぼれてしまった水滴は尖らせた上唇にどうにか留まる。 あ、あ、ヤバイ。鼻水も出てきた あーーーー 瞬きしてしまう。 一気に溢れた涙の粒が頬からも唇の先からもパタパタと落ちてゆく。 あっ、俺のケーキ… クリーム点々と凹んじゃってるじゃん! 鼻水入ってるきっと!先食っちゃえば良かった~ こいつが突然こんなこと言うから! お門違いの怒りを脳内でぶつけたところで目線を上げる。 あいつの穏やかな表情は変わらない。悔しい! 「お、お、俺が。俺が言いたかったのに。なんでお前」 と、そこまで言って、友達の好きかも、とふと思った。恥ずかしい! 勘違いか! 一気に頬から耳まで熱くなる。 「あ、いや・・・友達としてな。はは・・・んぐ」 ティッシュを目元と鼻に押し当てられた。目をギュッと瞑る。 「違う。――――あと、もし、お前から言ったら、俺がお前に無理に合わせてるって、絶対思うだろ?」 ――え・・・何それ。お前ノンケだろ。彼女いたことあったよな。ノンケだから、だから一方通行でも良いって思ってたのに。 「でも、俺から言いたかった! 俺、ずっと。もうずっと好きだったから」 目元を隠したままキレ気味の声になってしまった。 引き取ったティッシュで涙やら鼻水やらを拭いて目線をあげる。 「知ってる」 そういったあいつの顔も大分赤かった。全部お見通しかよ!だったら・・・ 「なんでこんな恥ずかしいシチュエーションなの?」 そう、かわいい女の子にこそお似合いの。俺には罰ゲームかよ、ってこの状況。 「いや・・・これは、同僚が告白するんならここにしろって・・・伝手で予約してくれてな。まさかこんなだとは思わなくて。ハハハ・・・ま、お前似合ってるぞ。ハハハ・・・・」 紅潮したまま笑うお前。 「嘘つけ! でも・・・・・・ありがとな!」 また涙と、困ったことに鼻水もにじんできたけど、照れ隠しにケーキをバクバク食べる。 相変わらず良い味の甘くないクリームは、ちょっと塩味がしたかもしれない。 合間にあいつが、ザッハトルテをフォークで刺して俺の口にかざす。 は、はずかしい奴だな!もうこの際ヤケだ。 パクリと口で受け取って、あいつの口にもクリーム(俺の涙入り)を纏った大きめの一口を突っ込んでやる。 「また、俺の飯、食ってくれるか?」 「もちろんに決まってるだろ。お前も仕事始まったら忙しくなるから、俺にも教えろよ? 料理」 お前のイケメンっぷりにまた鼻の奥が痛くなってきたけど、振り払うように何回も頷く。 お前と一緒に料理して飯を食う。親友とはちょっと違う、もっと近い距離かもしれない。こんなに次の年が楽しみなこと無かったな。にわかに胸の辺りがあったかくなる。 嬉しくてもういいや!とばかりに、お互いの口にケーキを運んだ。 端から見たら、俺たちバカみたいだろうな! でもいいんだ。最高に幸せだから。

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