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第4話 エプロンで乾杯

「あっちぃーー」 ぱたぱたと汗だくの首筋を左手で扇ぐ。 換気扇もゴンゴン回してるけど暑い。 問題はこの蒸し暑さ。梅雨入り前の厳しい暑さ。 まだエアコンのフィルター掃除してねぇんだよな。 それに、揚げ物するのに部屋を閉めきるのもなんか嫌なんだよな。 窓全開で換気扇は強。 でも、揚げ物は熱いから暑い~~ でもでも、今日はコレが食べたかったんだよ~ 下味をつけた豚肉に片栗粉を纏わせ、じゅーじゅーと揚げてゆく。 にんにくと生姜に醤油の匂いが香ばしく絡み合って口の中に唾が沸きだす。 今日はどうしても排骨麺(ぱいこーめん)が食べたい!食べたい!食べたい!と昼から思ってた。職場で弁当食った後、コンビニに出かけた俺。ラーメン屋から襲いかかってくる肉とラーメンの凶悪な匂い。ガラス窓に貼られた排骨麺のポスター。その瞬間、俺の晩飯は決まった。 あいつも絶対好きなはず。 帰りに五香粉も買ってきた。明日は土曜で仕事休みだからニンニクも入れちゃったよ。あーー良い匂い。腹から、きゅぐきゅるるるぅ・・・なんて情けない音がする。 「ただいま。うぉ。堪んねぇーー良い匂い!」 どかどかと廊下を入ってくる重たい足音。 「良いタイミング!湯が湧いたら麺茹で始めるからな!その間にお前シャワー浴びちゃえよ」 俺は揚げ物と麺茹でがあるから後にしよっと。どうせ汗かくからね。 と、振り返ると同時に ゴッ―― ピール缶入りの袋が床に落ちた。 「どうした? お前・・・足大丈夫か?」 ビール缶、足の上に落ちただろ、今? クルリと踵を返すと、あいつは洗面所に向かった。 おいおい、ビール置きっぱなし。 あいつカラスの行水だからな、湯を沸かして麺が茹であがるまでに間に合うだろ。 グラグラと沸き立つのを待って、大鍋に麺を投入する。4玉。奮発してちょっと高い麺だ。 スマホのタイマーをちょいちょい確認しながら、温めておいた丼椀にスープを作る。 刻みネギOK、茹でたほうれん草OK!食べるラー油と絡めたもやしと味玉も乗せよっと。今日は排骨麺単品だからね。乗せすぎか。 なんて考えるうちにアラームが鳴って麺と格闘する。 網の上でまだピチピチ音をさせてる排骨を麺にのせる。 スープに浸った瞬間ジュッって音がした! この音聞くと勝った~って気分! 熱々の汁がなみなみ入った丼椀を、手元を見つつ慎重に運んでいると、あいつがリビングに入ってくる。 「ビール冷蔵庫から取って! 早く座れ! 早く!」 丼椀を二人分運んだところで、なんだかノロノロやってるあいつの顔を見ると、なんだか微妙な顔? 「?? 何ブスくれてんの?・・・早く食べようぜ!」 とりあえず乾杯!! ビールを流し込む。あーーーーーー最高ーーー! さてさて排骨麺!排骨!豚バラ肉だけどな! カリッカリじゅわっと肉の旨味。んーこれこれ、これが食べたかった! 行儀悪いけど、肉が口に残ってるうちにハフハフと麺をすする。 ふと、目線を上げてあいつの顔を見ると。 肉をかじったまま俺を見てた。火照ってる。暑いし熱いよな。 と、目線が合ってあいつは半眼になる。もしかして美味しくないとか? 「え、口に合わねぇか?」 「すっっげぇ旨い」 「何その顔・・・」 拗ねたようなへの字の口をしたかと思うと、急に眉尻を下げた。 「お前さ・・・・・・何その格好。いや・・・お前の、背筋から腰の線スゲーいいんだけどな・・・・・・」 最後はゴニョゴニョ言ってて良く聞こえなかった。 俺は忘れていた。 蒸し暑くて大汗かいて、自分があんまり汗臭いんで、カッターシャツと一緒にアンダーシャツも脱ぎ捨てたことを。 スリーシーズン用のスラックスが蒸れて気持ち悪いんで、脱ぎ捨てたことを。 揚げ物するのに油跳ねるよなと思って、あいつが俺専用に用意したエプロンをそのまんま着けたことを。 つまり、パンイチにエプロン。前からみると・・・・・・ 「うわ、んぐっ・・・」 うっ、麺が鼻に入りそうだった! 顔にみるみる血が上る。こめかみもつむじも熱い! 俺、なにやらかしてるんだ。 すでにダラダラかいている汗に冷や汗も加わる。冷たくないけどな。 おそるおそる自分を見下ろす。 裸の胸筋にエプロンはまだ許そう。だ、ダメか? そして、そして・・・おっさんに片足突っ込んだ27歳男の生足がエプロンから・・・ いや、こ、これは、許されないよな? 「わ、悪い。暑くってつい・・・・・・ぶ、不気味だな。食い終わったらシャワーして着替えて来っからな!」 ますます汗が噴き出す。もう俺、汚ねぇ~。 手拭き用の小さなおしぼりでガシガシ顔を拭く。恥ずかしくておしぼりから顔を離せない。 しばらく羞恥に縮こまってたけど、麺が伸びないうちに食べないと、と食い意地が頭をもたげる。食い終わらないことにはシャワーも浴びれない。 そう言えば無言のままのあいつを、おしぼりからチラリとのぞく。 ニヤニヤしながらビール飲んでるよ、こいつ。余裕を取り戻した目と視線が合う。 「なんだ。誘ってんじゃないんだな。フッハハハ・・・・・・ご飯? お風呂? それともオレ? ってヤツかと思ったぜ。ハハ、アハハ・・・ハハハハ」 こいつ~~自分で言っておいて、ツボに入ったのか笑いが止まらない。 く、悔しい・・・・・・ あ、笑いながらスマホで写真撮ってる! 「やめろ、やめろ! 悪趣味~~流出したらどうすんだ!」 「ヒヒヒヒ・・・アハハ。流出なんかさせるわけねぇだろ!」 「くっそーーー」 恥ずかしいのと悔しいので動悸が治まらない。 とりあえず急いで麺を食べきる。 また汗だくになったところで。 「片付けお前な! シャワー浴びてくるわ」 言うなりあいつのおでこに思いっきり吸い付いてやってバスルームに駆け込む。 「油ぎとぎとキスの刑じゃー」 あいつは多分笑ってる。俺はいつも完敗。

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