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Mother

 記憶の中の母はいつも痩せていて顔色が悪く、意識が向いていない時はとにかく纏った影が濃かった。外見は繊細だったがとにかく愛情の深い人で、自分が一番に母に愛されていた自覚はある。ずっと貧しくてひどく限られた生活をしていたが、母があるものの全てを僕に傾けていたのを知っている。常に僕を自分の側に置き、どこに行くにも手を引いて歩くような少々過保護な育てられ方をしていたが、僕に不満は全くなかった。求めれば母はいつも笑って抱き締めてくれたからだ。  十二月が近づくと毎年母のことを思い出す。町は近づくイベントに向けて活気付き、至る店が赤と白と緑に飾られる。お決まりの曲がスピーカーから流れてきて、買い物に出るだけで何となくウキウキしてしまう。母はこのシーズンが好きだった。金は無かったが何とか祝おうと、幼い僕へのプレゼントとして毎年いつもの菓子店でチョコレートを買ってくる。ブーツの形の箱に、サンタ柄の包み紙に包まれた甘ったるいミルクチョコレートが十個入っている。それが母が用意出来る精一杯だということが僕には分かっていて、枕元に仕込まれたそれを受け取り、少し過剰に喜んで見せる。僕のサンタクロースはきっと今でも、僕が本当はチョコレートが嫌いだという事を知らないだろう。

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