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keep Christmas
もう何年経ったのか、動かない母は老いているのかいないのかもよく分からない。機械音と呼吸音に包まれ、母と二人きりで過ごす静かな時間が僕は好きだった。暖かい母の手を取り、何を話すでもなく側に居る。
幼い日に詰め込まれた短い思い出だけれど、母と過ごした何回かのクリスマスを巡らせる。買えないケーキの代わりに、炊いたご飯を型抜きしておかずを飾り、ケーキにした。ろうそくの代わりに立てた母の手作りの爪楊枝の旗が、幼い僕は嬉しくてたまらなかった。チキンの代わりに油揚げをカリカリにして食べた。僕にとっては、それがクリスマスのお祝いだった。母と何度もジングルベルを歌い、その日だけ振舞われるシュワシュワのジュースを母と分け合ってちびちび飲んだ。
たとえ栄が面白くないとしても僕は母の居る病院に寄らずにはいられず、帰りの遅い毎日を繰り返している。仕事帰りに最寄りの菓子店で箱入りのチョコレートと缶のサイダーを買った。
今日はクリスマスイブで、街は一際賑わっている。この日だけは母と二人でクリスマスを祝うと僕は昔から決めているのだ。
小さい頃母と眺めた商店街のライトアップとは比べ物にならない、駅前公園の見事なイルミネーションをスマートフォンで撮影する。コンビニで画像をプリントアウトして母の病室に飾る。それを毎年繰り返していて、もう二冊目のアルバムが一杯になりそうだった。
チョコレートは枕元に、サイダーはコップに半分に分けて母のベッドのサイドテーブルに置いた。すっかり耳慣れた規則的な機械音を伴奏にして、僕はボソボソとジングルベルを歌う。
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