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Silent night

 クリスマスが来た。今日こそは早めに家に帰ろう。僕はそのつもりだった。  然し、結局今日も僕は病院にいる。母の抜け殻は、本当に抜け殻になっていた。仕事中に病院から緊急の連絡が入る。母の容体の急変の知らせだった。  僕が病院に到着した時には、機械音も呼吸音も止まり室内は既に静寂だった。母の命を繋いでいた機械が何らかの原因で止まり、弱かった鼓動が継続出来ずに停止してしまった。蘇生を試みたと説明されたが、母は戻って来ずに無機質になった。僕も漠然と思考が停止してしまい、どんな案内をされてもどんな話をされても全く入って来ずに、夜にはフラフラと家に戻った。 「おかえり」 帰宅するなり栄は待ち構えていて、ドアを開けるとすぐに僕の手を掴み、無邪気に室内に引き込んだ。 テーブルの上にはご馳走が並んでいる。チキンに、ケーキに、シャンパン。栄の得意料理のビーフシチュー。栄は機嫌がいいのか笑みが滲んでいて、僕とは対象的にテンションがとても高い。 「メリークリスマス!」 気の抜けた僕を強引に食卓の椅子に座らせては、いきなり栄は小さな紙袋を手渡してくる。訳もわからない僕は、流されるままに手持ち無沙汰に華やかにラッピングされた包装を解いていく。 「もう、俺の番でもいいよね。二十年待ったもん」 栄は意味深な言葉を口にしながらグラスを目の前に並べる。小気味いいコルクの音が部屋に響く。  ようやく開いた紙袋の中には、見覚えのある表紙のアルバムと、箱入りのチョコレートが入っていた。グラスにシャンパンを注ぐ栄は、全く悪びれない。僕は瞬間的に母の病室で起きた事を理解した。  栄は今日、あの病室に行ったのだ。

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