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grow out of night
あの日、家のリビングで見た悪魔を思い出す。皿の割れる音と、家具が壊れる音、頬を打つ鋭い音と鈍い音。思い出せないはずの記憶と現実がリンクする。自分が叫んでいるのか、栄が喚いているのか、どっちの声なのか分からない。聴覚は膜が張っていて鈍くなった。ズキズキとひどい頭痛がして、眼球が煮え滾って熱い。振り回した手が痛くて、薙ぎ払った足が痛い。栄も僕も床にのたうち回りながら、掴み掛かって暴れに暴れていた。
「俺は、俺だったら、まだ生きたい。生きられるだけ生きたい!お前をそんなふうにしない!!」
栄は絞り出すように叫ぶ。
「猫が可哀想で悲しいから」
そう答えた幼い僕が一瞬見えた。
ふと動きの止まった僕に、栄が頬を捉えてキスをする。いつまで経っても何が何だか理解出来ない。栄は自由で、僕ですらも手に余す。狂ったように僕を求めてキスを重ねる栄の頬を僕は思いっきり平手で張り倒す。どんなに殴っても、栄はキスを止めない。
「あの施設の先生の抱っこの順番はいくら待っても俺達には回ってこないって知ってた?」
これだけの立ち回りの最中に、唐突に栄が切り出す。抱っこの時間…施設での就寝時間に、入学前の幼い子供に向けてそんな事をやっていた事を、場違いながらにじわりと思い出させられた。
「俺も、お前も子供じゃないから…子供になれないから……だからダメなんだって」
後髪を思いっきり引っ張って、体を引き離そうする俺の手に構わずに、栄は俺の身体に縋る。
「どうやったらなれんの…?」
言いたい事が何なのかこちらが飲み込む前に、やかましい程に泣き崩れた栄を、なぜかこれ以上拒絶する事は僕には出来なかった。
それから泣いて、泣いて、ぐちゃぐちゃに泣いて、壊滅的に散らかった部屋の中に二人で寄り添ってただ丸くなった。窓際に倒れて折れたクリスマスツリーの不規則な点滅をぼんやりと眺めて、どちらとも無くキスをした。
唇に、頬に、耳に、キスをして、散々なクリスマスパーティの残骸の中で、僕と栄はセックスをした。どんな感情で、どんな気分で、どんな気持ちで及んだのか説明出来ない。
ただ剥き出しのまま抱き合いたいと願う栄に引き摺られて、僕もすっかり汚れきった服を脱いだ。お互いに痣と生傷だらけで、散った料理に塗れてとにかく汚くて、なのにまるで動物のように僕は栄に貪られていた。どうしようもなく滑稽なのに、それが無様だとは思えなかった。
母はずっとずっと抜け殻だったのに、栄は全然違っていて、熱くて生々しくて、何よりもひたむきだった。忘れかけていた生身は思っていたよりも固くて柔らかくて、ズシリと重かった。
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