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第4話穴掘りの顛末

結局、木ノ下さんを引き連れて穴掘りをすることになった。休日の昼過ぎ、小雨が降る中を散歩の名目で公園へ向かう。 雨は土の匂いが強くなる。緑が生い茂る公園の端で、俺は胸いっぱいに深呼吸した。恵みの雨で生き返る思いがする。 木ノ下さんは近くのベンチで俺を見守っていた。 「いつ見ても穴掘りは面白いな。お前の目が有り得ないくらいキラキラだぞ。ギラギラというべきか」 「あんまり見ないでください。集中してるので」 「はいはい。思う存分掘れ」 濡れた土が指に絡みつく。掘った分だけ満足感が増えていく。爪に土が入ろうとも、服に土が付こうとも、お構い無しだ。『泥浴び』や『砂浴び』もやってみたいくらいであるが、流石にここではできない。 ほんのり冷えた土はとても魅惑的だ。 (柔らかい。濡れている土も気持ちがいい。幸せ) 大地を抱くような気分に酔いしれて、穴掘りは終了した。今日は、掘るだけに留めた。埋めたいものを家に置いてきてしまったからだ。 公園のトイレで手を洗う。本当は1人で穴を掘ってはいけなかった。同族の見張りを立てて夜中にやるのが、人間になりきれず狐の習性と付き合っていかねばならない一族の約束である。 俺は、木ノ下さんという理解者がいて、世の中から狐人間が肯定されていると、驕っていたのだろう。今となっては後悔しかない。 公園を出たところで、髪の長い女の人に声を掛けられた。初夏だというのに、ぶ厚いトレンチコートを着ている。化粧っ気は無いが、目鼻立ちは整っていた。 「すみません。ちょっとお話を伺ってよろしいですか?私はこういう者です」 女性はすっと名刺を差し出した。 “『週刊百の噂と真実は1つ』記者原地のぶ代” 週刊誌…………??が、俺たちに何の用かと考えあぐねる。申し訳ないが、女性が作っている週刊誌は読んだことかない。 「公園で何をされてたんですか?私の見間違いでなければ、穴を掘ってましたよね」 「!!!!」 ギョッとした。穴掘りが第三者に見られていた。更に固まってしまった俺は、全く受け応えができない状態になる。 自分の心臓の音が煩いくらい身体に響く。どくんどくんとサイレンのように、警笛を鳴らしていた。 (ヤバい……見られていた。どうしよう……) どうしたらいいのか焦って言葉にならない。穴掘りが人間に見られていたとか、想定外の事案に思考が停止する。この女の人の目的は何なのか。 まさか、狐一族の天敵だったりするのか。 「いやいや、こいつがガーデニングやりたいっていうから、ミミズを探してたんです」 「……ミミズ……?」 いきなり木ノ下さんが突拍子もないことを言い出し、その場がしいんと静まり返った。

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