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第7話穴掘りの顛末
風呂上がり、リビングで今後の話し合いが始まった。
お前は覚えが悪いからとノートとペンを渡される。
「まず、あの原地とかいう記者はカマをかけてきている。絶対に話に乗らないことだ」
「…………カマ?」
「知りたいことを相手から自然に引き出すため、それとなく誘導することだ」
『カマに乗らない』とメモをする。カマなんて言葉は初めて聞いた。
「狛崎の場合、原地と会話をするのも禁止。お前は素直すぎる。何を言われても返事するな。記者に絡まれた有名人みたいに小走りで素通りしろ」
「はい」
更に『会話禁止』を付け加える。
「記者対策はこれくらいかな。恐らく、後をつけて俺ん家がバレているだろうから、狛崎は今日からここで暮らすのがいいだろう」
「えっ、家がバレているのに、おかしくないですか?」
「だからだよ。お前がのこのこと自分の家に帰ってみろ。狐人間の家が原地に知られるんだぞ。そっから芋づる式になり、考えるだけで狐人間の終わりが見える。被害を最小限にするには、ここで食い止めなくてはならないだろうに」
「なるほど……木ノ下さんすごいです!!」
「全然凄くない。狛崎が抜けているんだ」
頭を小突かれ、身体が後ろへ傾いた。
「あの様子じゃ、俺と狛崎の2人、またはどちらかを狐人間だと思っている。当然だが区別はついていない。暫くは俺が狐人間っぽく気を引いてみるから、狛崎は極力目立たなく地味に暮らすんだ」
「分かりました」
「穴掘りも禁止。お前はベランダでやるガーデニングが趣味の地味なサラリーマンだ」
元々地味なサラリーマンなので特に気を付けることは無い。自然にしろ、と木ノ下さんは言う。
未知の人間のやることが分からない今、木ノ下さんの言うことを聞くしかなく『今のままで穴掘り禁止』と最後に記入した。
「さて、これで原地がどう出るか。当てが外れたと身を引いてくれればいいのだが、こればっかりは読めない」
「……俺にも予測がつきません」
「狐人間を追いかけるって物好きな人間もいるもんだな。しかもかなりの情熱で」
「本当に怖かったです」
考えるだけでも身震いしてしまう。鋭い眼光に全てが見透かされそうだった。
「荷物は、近々取りに帰れるか?」
「明日、仕事の合間に行ってきます」
「原地も暇じゃないだろうし。平日の昼間なら目立たなく動けるか」
「狐は夜行性だから、夕方から夜を狙ってくると思います」
原地さんがどこまでネタを掴んでいるかは不明であるが、狐が夜行性で良かったと生まれて初めて思った。習性を調べれば夜行性が一番最初に出てくる。
翌日、荷物を取りに帰り、家族には適当な理由を説明した。
こうして俺は、木ノ下さん宅で暫くお世話になることになった。
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