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第8話穴掘りの顛末

原地さんの狐に対する情熱は予想以上だった。 穴掘りを直撃された3日後から追跡が始まる。3日というブランクは、木ノ下さん曰く『油断させるため』らしい。 とにかくどこにでも原地さんは出没する。いつもどっかにいて、俺達をじっと睨んでメモをつけている。木ノ下さんが標的らしく、2人でいる時以外は、木ノ下さんの後をつけているようだった。 最初の数日こそ戸惑ったものの、だんだん慣れてきた。他の狐族が犠牲になるよりは、気が済むまで俺を追いかけてもらえば、という考えに変わっていた。 実は、木ノ下さんと同居という状況を楽しむようになってきた。狐族以外の家で暮らすとか、今までの俺からは想像がつかなかった。 「またいますね」 「あいつも懲りないな」 「注意しますか?」 「話しかけるな。相手に隙を見せてはいけない」 「…………はーい」 1週間後の日曜日である。近所のスーパーへ買い物へ行く途中で、商店街の片隅に原地さんの姿を発見する。電柱に隠れているつもりらしいが、長い髪が風に揺れていた。 「今日の晩御飯は何にしよう」 木ノ下さんがカートへカゴを載せる。休日のスーパーは人でごった返している。 「俺、木ノ下さんが料理することにビックリしました。家庭的なものは嫌いだと思ってたんで」 「必要に駆られない限り、料理なんかやんないよ。俺は毛並みを守るためにやってる。一応大事な狐を預かってる身なんでね。今回のことは俺にも責任があると自負している」 平日は、木ノ下さんの方が帰りが遅い。仕事も俺の何倍もの量を抱えているし、出張も頻繁にある。普段はコンビニ弁当か、それぞれで済ませている。 カートは奥へ奥へと足早進んでいく。後をついて行くのに必死だ。 「毛並みって、そんなに悪くないです」 「いいや、食べるものは身体を作る。特に毛は顕著に現れるんだ」 俺のためではなく、『狐の毛並みのため』って。そんなに狐が好きなのか。確かに、始まりは木ノ下さんの狐に対する異様な執着からだった。 そう言えば、原地さん事件から尻尾どころか身体自体に触られていない。だから狐化もしていない。身体は落ち着いていた。 (なんか面白くない……かも) 「…………」 「チキンバターカレーでも作るかな。お前、鶏肉好きだろ」 「高級な鶏肉なら」 「国産で十分だ。あとは、えーと……」 木ノ下さんは『俺の毛並み』のために、手料理を振舞い、バランスの良い食事を心掛けてくれる。    この間、『セックスしたい』と俺に言っていた彼はどこへ行ったのか。拒否した手前、聞くに聞けないでいたし、積極的にやりたい訳では無いので、話題を振るにはリスクが大きい。 ただ物寂しいな、と思っただけだ。

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