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第10話穴掘りの顛末
「狐を追いかけているつもりが、ホモ撮ってたとか、面白くないか?ホモだぞ?情けなくなるだろ」
長いキスの後、再び歩き出した木ノ下さんは、けらけらと笑いながら俺に話しかけた。
木ノ下さんの考えていることが読めない。一体何を思って俺にキスをしたのか。したくてしたのか、記者達に一泡吹かせたくて、キスしたのか?
(あまりにも単純すぎやしないか。いや、俺が考え過ぎなのかもしれない……)
結局、仕方なく俺を構っているうちに情が沸いてきたと思うことにした。彼から見たら俺は小動物系に分類される。
そうだ。立場は対等ではない。人間は人間しか認めない。俺みたいな狐人間は、所詮動物扱いの下級生物なのだ。
唖然としているであろう記者を置いて、俺たちは無事に帰宅した。
木ノ下さんは着いてすぐ晩御飯の支度を始める。手際よく米を炊き、不思議なカレーを作りだした。
俺はゆっくりキッチンへ近づく。
もやもやに思考が支配され、何が何だか分からない。木ノ下さんにとって小動物以下の存在でも、ここまでしてもらう理由を知りたかった。
「あ、あの…………」
「なんだ。腹減ったか。もうちょっと待て」
「いや、そうじゃなくて、、」
「暇ならミルクに餌やってくれ」
「…………はい」
「キャベツがあっただろう」
「昨日の残りがありました」
やっぱり俺は意気地無しだ。言いかけて、ミルクの世話に流れた。再び挑戦するような勇気も無い。
冷蔵庫にあったキャベツを数メートル先にあるミルクのケージへと持っていく。
待ってましたとばかりに、普段見向きもしない兎が寄ってくる。狐だからか、最初は近寄りもしなかったミルクは、気付いたら手慣れていた。
白いもふもふの見た目は悪くない。寧ろ可愛く思える。
「よし。少し煮込んだら完成」
後ろで着々と進む夕食準備に、ぐうと腹の虫が鳴る。
もやもやもやもやが俺を飲み込もうとするが、現状はそれどころではない。俺の気持ちの問題より、一族の危機なのだ。
頭を激しく振って、暗くて重い思考を追い払った。この衝動と何回葛藤すれば、気にせず平気になるのだろうか。
『ピンポーン……』
突然なんの前触れもなく玄関のチャイムが鳴った。俺が目配せすると、木ノ下さんは首を傾げる。
「誰……ですか?」
「さて。来客の予定はなかった筈だが。宅急便かな」
互いの携帯を確認するが、誰からの着信もメッセージもない。もしや記者たちかと軽く身構えた。
インターホンでボソボソと対応していた木ノ下さんが、おもむろに振り返る。
「狛崎。お前にお客さんだ」
「…………えっ、原地さん?」
「記者なんかに応対するかよ。髪のピンクな男の子だ。お前の幼なじみだそうだ」
モニターには硬い表情の桃矢が映っていた。
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