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第11話穴掘りの顛末

玄関を開けると、桃矢が立っていた。 「真那斗……おばさんから聞いた。先週からずっと会社の上司宅から通ってるって。急にどうしたのか心配になったんだ。ちょっと話せないか?」 桃矢は心配そうに俺を見る。ピンクに染めた髪の毛がドアの隙間から見える夜空に映えた。言わなくても分かる。狐になりやすい俺を大丈夫かと気に掛けているのだろう。 「外で?」 「できれば2人になれるところがいい」 チラリと俺の背後にいる木ノ下さんを気にしている。 「ちょっと外は……よくない、かも……」 恐らく、かなりの確率で記者がいる。会話を聞かれると非常にまずい。まずいどころか、狐が終わる。 「どうして……?」 「どうしても外は駄目、なんだ…………」 「狛崎。だったら、うちで話したらどうだ。俺は席を外すよ。その間にゆっくり話をすればいい」 「…………すみません」 「ちゃんと『説明』しろ。そろそろお前だけの秘密では済まないだろう」 ポンポンっと俺の頭を軽く撫で、木ノ下さんは外へと姿を消した。大きな背中に頼りたいと思ってしまうところが、俺の弱いところだ。 木ノ下さんはあくまで部外者であり、狐の問題は俺の問題である。 自らの犯してしまった罪による罰を受けなければならない。 「えと、何から話したらいいのかな……」 勝手知ったる他人の家である。冷蔵庫のお茶をグラスへ注ぎ、桃矢へ手渡した。2人はリビングのテーブルに向かい合わせで座り、沈黙のまま時が流れる。 桃矢には秘密を打ち明けようと決意した。家族の耳に入ろうが、追放されようが、想像するだけで涙が出そうだが、自業自得だ。重すぎる罪は独りでは抱えきれない。 ぎゅっと目を瞑り、深呼吸した。 「あの、実は……先週……」 「ねえ、前から思っていたけど、木ノ下とかいう上司とどういう関係?」 『木ノ下』と、低い声で桃矢がまくし立てる。 いきなり強い口調で身を乗り出すものだから、俺は慌てた。 「ど、どういうって」 「腕時計とか真似していただろ。おそろいって嬉しそうにしてたじゃん。毎日一緒に営業してるって。それから急に同居って、なんかおかしい。おかしいって!!!普通の上司と部下の関係ではないって!!!」 バンっ。桃矢が机を叩くと、テーブルのお茶が勢いよく倒れた。 「ちょっと、桃矢。落ち着けよ」 「落ち着けるかよ。真那斗は俺のものだ。こっちは小さい時から、ずっと一緒だったんだ。あんな変態そうな男に真那斗を取られたくない」 失礼な。木ノ下さんは変態じゃない。と言おうとして口を噤んだ。木ノ下さんは多分変態だ。あの事件以来尻尾の出番は無いが、普通ではない。  尻尾を触っている木ノ下さんは、何とも言えない無表情で、ひたすら毛を愛でることに集中している。 まさに変態以外何ものでもない。

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