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第12話穴掘りの顛末
「木ノ下さんとは桃矢の思うような関係ではない。勘ぐりすぎだよ」
桃矢は、俺と木ノ下さんが恋人のようではないかと疑っている。まさか、である。
変な侍従関係ではあるが、それ以下も以上もない。
「なら、どうして一緒に住んでんの?」
「…………驚かずに聞いて欲しい。実はこの間、穴掘りを別の人間に見られたんだ」
「え………………はあああああ???」
記者のくだりを話す前に、桃矢は聞いたことのない奇声を上げた。目を見開き、信じられない表情で俺を見た。
「穴掘りを、しかも、週刊誌の記者に見られた可能性が高くて、事情を知ってる木ノ下さんに匿って貰ってる」
「…………まさか真那斗が狐だってことも、あいつは知ってたりするのか」
「ああ。知ってるというか、暴かれたというか、ウサギに嵌められた。ごめん……本当にごめん」
何度も何度も謝罪の意を込める。桃矢に言ってもしょうがないことぐらい分かっている。
行き場の無い罪悪感を、桃矢を通して一族のみんなへ伝えようとする。無意味な行為でも今の俺にはこんなことしかできない。本当に情けない。
「狐バレは大罪だよ」
「…………分かってる。狐は木ノ下さんしか知らない。ただ、狐人間を見たことがあるという記者がしつこくて、常に張り付かれている。週刊誌に写真が載ることは何としても食い止めたいんだ。それに木ノ下さんには悪意は無いよ」
「何の根拠があって『悪意が無い』と言えるんだ?今も、出かけるフリをして記者にタレ込んでるかもしれないじゃないか。あいつは人間だぞ。真那斗は人間を信じるのか?」
『人間を信じるな』と、幼い頃から散々言われてきた。
狐一族には様々な人間と闘ってきた歴史がある。何度も裏切られ犠牲を払い、人間に対する恨みは根強い。今更仲良くするなんて、夢物語りなのも分かっている。永遠交わることのない種族なのだ。
「人間と言うより、俺は『木ノ下さん』を信じている。2年間木ノ下さんの下で働いてきたから、よく分かる。彼は信じるに値するよ」
「…………俺は信じないよ。真那斗がどう思おうと、人間は下劣な種族だ。木ノ下も所詮人間だろう。これは狐老会へ告発すべき案件だ。見過ごす訳にはいかない」
『狐老会』の名前を出され、座る足が震えた。絶対的な決定権のある狐老会は、全てを網羅し、執行する権限がある。俺の追放など簡単であろう。
「告発してもらって構わない。俺はどんな罰でも受ける。ただ、記者が諦めるまで待って欲しいんだ。今、不審な行動は命取りになる。どうか騒ぎが治まるまで黙っていてくれないか」
桃矢は真っ直ぐに俺を見た。正義感の強い凛々しい瞳には、何もかも見透かされそうだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「なあ真那斗。待つなんてことをしないで、俺と今すぐ逃げよう。人間社会もも狐も全て捨てて、誰も知らない土地でひっそりと暮らさないか」
「…………」
何を言っているのか理解ができず、呆然としてしまう。
桃矢は巻き込みたくなかった。掟破りの罪を背負うのは俺だけで充分だ。
「…………ごめん。俺には狐も人間も、中途半端で投げ出すことはできない。この問題が終わったらちゃんと責任は取る。だから桃矢には見守っていて欲しい」
「……………………分かった、よ……」
桃矢はとても悲しそうに頷いた。あまりにも悲しそうなものだから、つられて泣きそうになる。
俺は、更に沢山の人を悲しませることになるのだろうか。
桃矢が帰った後は、ただただ自分の過ちを呪った。
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