13 / 41

第13話休日(side木ノ下)

「ゆうきさーん、釣れましたかー??こっちは全然ですー」 「あんまり」 「ですよねー。今日はイマイチだぁ」 家から車で2時間ほどのとある港の桟橋まで、釣りに来ていた。朝焼けが辺りを金色に照らしている。俺から2m程離れた隣に釣友である加藤が座っていた。 他にも釣り人が見かけられ、盛況な漁場であることが分かる。なのに、俺も加藤も全く釣れずにいた。釣り人にあるまじき、釣れずにイライラする感情に囚われている。 じっくりと鯛を待ちたいのに、全く気持ちが落ち着かないのだ。 出発する時、狛崎はリビングのソファで眉間に皺を寄せ苦しそうに寝ていた。声を掛けようか迷ったが、寝付きも悪く不眠気味なのを知っていたので、そのままにしておく。 幼なじみが帰ってから、明らかに奴の挙動がおかしくなった。何を言われたのか俺の作ったカレーもあまり食べず、言葉数も少なく早々と寝る体制に入っていた。 彼らが仲違いする要因を作ったのは俺だけに、罪悪感も無くはない。ただ、原地の出現は想定外だった。元々狛崎が狐人間というのも、実はかなりの想定外で、最初はコスプレ趣味の一環かと思っていたのだ。 謎解きのように狛崎の正体を暴いた。まさか、人間の皮を被った狐とは知らずに。パンドラの箱を自らの罠まで作って開けてしまった。 「はぁ…………」 自分の蒔いた種に頭を抱える。 気分転換の釣りは、リフレッシュに値しないようだ。 「優希さん、これからどうします?」 いつの間にか加藤が近くに移動してきていた。椅子が凄いスピードでスライドしてくる。 「どうしよっかなぁ……」 「クーラーボックスは空ですし、久しぶりにどこかで休憩しませんか」 加藤とは、どこかの居酒屋で釣りが趣味ということで意気投合した。最初は本当に釣りだけだったのだが、加藤には下心があったらしい。 釣りの後、うちで宅飲みしている時にあっさりと襲われた。元々バイの気があった俺は、軽いノリで加藤を抱くようになる。今では互いに性処理をする関係だ。それ以上もそれ以下もない。 「休憩するか」 「やったー!!久しぶりに優希さんとエッチできるー」 「声がでかい」 「ごめん。ついつい嬉しくて。優希さん、誘っても全然遊んでくれないんだもん」 「ペットを飼い始めたんだ」 「白いウサギですよね」 「最近は狐も増えた」 「狐ってアパートで飼えるんですか」 「色々あってな。可愛いよ」 狛崎のふわふわの尻尾が頭に浮かぶ。 触れてはいけない狐に罪の意識が重なって、気軽に欲望を晒すことができなくなっていた。 「可愛いんですか」 「ああ。可愛いよ」 「優希さんが恥ずかしげもなく『可愛い』を口にしている。んもー、狐が憎い」 性処理をしたら、気分は晴れるかもしれない。 今日は魚を諦めて、釣り道具を仕舞うことにした。 需要と供給は成り立った。

ともだちにシェアしよう!