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第13話休日(side木ノ下)
「ゆうきさーん、釣れましたかー??こっちは全然ですー」
「あんまり」
「ですよねー。今日はイマイチだぁ」
家から車で2時間ほどのとある港の桟橋まで、釣りに来ていた。朝焼けが辺りを金色に照らしている。俺から2m程離れた隣に釣友である加藤が座っていた。
他にも釣り人が見かけられ、盛況な漁場であることが分かる。なのに、俺も加藤も全く釣れずにいた。釣り人にあるまじき、釣れずにイライラする感情に囚われている。
じっくりと鯛を待ちたいのに、全く気持ちが落ち着かないのだ。
出発する時、狛崎はリビングのソファで眉間に皺を寄せ苦しそうに寝ていた。声を掛けようか迷ったが、寝付きも悪く不眠気味なのを知っていたので、そのままにしておく。
幼なじみが帰ってから、明らかに奴の挙動がおかしくなった。何を言われたのか俺の作ったカレーもあまり食べず、言葉数も少なく早々と寝る体制に入っていた。
彼らが仲違いする要因を作ったのは俺だけに、罪悪感も無くはない。ただ、原地の出現は想定外だった。元々狛崎が狐人間というのも、実はかなりの想定外で、最初はコスプレ趣味の一環かと思っていたのだ。
謎解きのように狛崎の正体を暴いた。まさか、人間の皮を被った狐とは知らずに。パンドラの箱を自らの罠まで作って開けてしまった。
「はぁ…………」
自分の蒔いた種に頭を抱える。
気分転換の釣りは、リフレッシュに値しないようだ。
「優希さん、これからどうします?」
いつの間にか加藤が近くに移動してきていた。椅子が凄いスピードでスライドしてくる。
「どうしよっかなぁ……」
「クーラーボックスは空ですし、久しぶりにどこかで休憩しませんか」
加藤とは、どこかの居酒屋で釣りが趣味ということで意気投合した。最初は本当に釣りだけだったのだが、加藤には下心があったらしい。
釣りの後、うちで宅飲みしている時にあっさりと襲われた。元々バイの気があった俺は、軽いノリで加藤を抱くようになる。今では互いに性処理をする関係だ。それ以上もそれ以下もない。
「休憩するか」
「やったー!!久しぶりに優希さんとエッチできるー」
「声がでかい」
「ごめん。ついつい嬉しくて。優希さん、誘っても全然遊んでくれないんだもん」
「ペットを飼い始めたんだ」
「白いウサギですよね」
「最近は狐も増えた」
「狐ってアパートで飼えるんですか」
「色々あってな。可愛いよ」
狛崎のふわふわの尻尾が頭に浮かぶ。
触れてはいけない狐に罪の意識が重なって、気軽に欲望を晒すことができなくなっていた。
「可愛いんですか」
「ああ。可愛いよ」
「優希さんが恥ずかしげもなく『可愛い』を口にしている。んもー、狐が憎い」
性処理をしたら、気分は晴れるかもしれない。
今日は魚を諦めて、釣り道具を仕舞うことにした。
需要と供給は成り立った。
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