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第14話休日(side木ノ下)

見た目とは真逆に、加藤はベビーピンクのラブリーな部屋を選んだ。バーテンの彼は、クールなイメージで売っているようだが、中身は乙女なのである。加藤目当ての女性客も多いと聞いた。 枕元の時計は、昼過ぎを示している。これからことに及び少し仮眠したとしても、日付が変わる前には帰れるだろう。 「優希さん、ぎゅってして欲しい」 「なんだ、やけに甘えたじゃないか」 「久しぶりだし」  2人からはラブホの安っぽい石鹸の香りがする。こうして性欲に流されるのも悪くない。 狛崎にはセックスの提案を物凄い勢いで断られた。だらしない俺とは違い、あいつは極端に真面目すぎる。原地事件から警戒が少し解けたように感じるも、頑なに守っている狐の貞操が神々しく思えて、尻尾にすら手を出せずにいた。 「…………舐めていい?」 「お前はそういうの好きだな。いいよ」 「優希さんのはでっかいから特に好き」 加藤は慣れた下着を下ろし、俺のモノを美味しそうに咥えた。俺はシックスナインになるよう移動し、手で刺激することにする。 「ぁっ…………ん、ぁぁん、もうイきそ」 加藤は気持ち良さそうに腰をくねらせる。  言っておくが、この行為に愛は存在しない。互いに特定の相手を望んでおらず、挿れて出すだけの関係だ。 その時、けたたましく携帯が鳴った。不釣り合いな機械音がピンクの室内へ鳴り響く。 明らかに雰囲気へ水を差された俺は、手を止めた。 「……ねぇ、優希さん、やめないで」 加藤が甘い声で懇願する。 着信音は1度止まり再び鳴り始めた。胸騒ぎがする。何故だか気になってしようがない。 俺は着信主を確認するため、枕元の携帯に手を伸ばした。 「ゆーきさん、ねえ、聞いてる??」 (やっぱり。狛崎からだ……俺に電話をしてくるとは、余程の理由があるのではなかろうか) 「ゆーきさん、ゆーきさんってば」 「ちょっと折り返してくる」 ベッドを離れ、浴室へ向かった。狛崎の携帯番号を素早くタップする。 『もしも…………』 『き、木ノ下さん?…………ひっく……ぐず』 涙声だ。しかも、泣きすぎていて、上手く話せないレベルと見受けられる。 家にいるようで背後は静かだった。 『どうした?』 『ごめ、ん……なさ、い。き、きつねの、写真、ひっく、撮られちゃった…………うわわわわぁぁぁぁん…………もう、終わり、だぁぁぁぁ……』 『落ち着け。写真がどうしたんだ』 『はらち、さんが、いきなり家に来て…………怖くて怖くて、そしたら、狐に……なって……』 『……………………』 『しゃしん、とられた……』 『……………………すぐ帰る。そこから動くなよ』 『………………』 『絶対に動くな』 『…………はい』  バスローブから急いで服に着替える。半勃ちの息子は、しょぼんと下を向き始めていた。呑気にセックスどころではない。 「え、急にどうしたの?」 「ごめん。用事が出来た。帰るわ」 「ちょ、ちょっと待って。何が起きたの?優希さん、待ってよ!?」 これから急いで帰っても優に2時間はかかる。置いてきた号泣のペットを心配しながら、手早く荷物を纏めた。

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