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第15話休日(side木ノ下)
きっかり2時間後、自宅へ着いた。
荒れた玄関には、狐のまま座り込んでいる狛崎の姿があった。いつもより一層色濃く狐が出ている。今までは尻尾と耳だけだったのが、鼻が心無しか長くなり、目つきも野生のものに近くなっていた。少し獣の匂いもする。こんな狛崎を見たことがない。
放心状態の狛崎を抱き起こすが、目も合わせようとしなかった。
「誰が来たんだ」
「…………はらちさん、だけ。ノラネコ宅急便。インターホン越しでも制服着てたし、木ノ下優希さん宛って言っていたから、玄関開けちゃった」
それからは、驚いて狐化した狛崎をゲリラ的に撮影したと、消え入りそうな声で教えてくれた。狛崎は辛うじて残っていた気力を振り絞り、俺を見る。
「木ノ下さん、俺、どうしたらいいのか、もう分かんないです……あんなことされたら自衛もできない。人間って、目的の為には手段を選ばないんですね」
「………………」
これは相手が極端に悪いケースである。だが、今の狛崎は怒りを通り越し、哀しみに染まっているように思えた。狐ながら人間世界で暮らし、人間のように生きてきた自らを哀れんでいるようだった。
「原地は最初から狛崎狙いだったのか」
「…………みたいです」
思い出したくもないだろうに、狛崎は虚ろな目で立ち上がる。
「俺……自分の家に帰ります」
狐は、ふらふらと覚束無い足取りで玄関を出ようとする。今外へ行ったら大騒ぎになる。狐化をコントロールできていない上に情緒不安定では大変危険だ。それに半裸である。
「おい、待てって」
俺は狛崎を強引に引き寄せて抱きしめた。
細い身体には、ふさふさの尻尾が付いている。俺の性癖にピタリと当てはまる尻尾は、存在意義を無くしたようにだらんと力無く垂れている。
「離してください。俺は、これからどうするか決めなきゃいけないんです」
「…………俺がなんとかする」
「木ノ下さんに何ができるんですか。狐老会に立ち向かえますか?家族を守れますか?ううぅ…………もう終わりだ……」
泣き腫らした赤い目から、大粒の涙が零れる。
「とにかく。今日は俺ん家に泊まれ。写真だってちゃんと撮れてないかもしれないし、落ち着いて考えたら対策が閃くかもしれない」
「バッチリ撮れてる可能性だってある。どっちみち原地さんにバレたんで、地の果てまで追いかけ回されます。狐は終わりです。死ぬしかない」
ダメだ。話せば話すほど、マイナス思考に陥ってしまう。
「狛崎、飯食おう。腹が減ってはいい考えも浮かばない」
「ご飯…………メシ…………確かに」
昼飯すらまともに食べていなかったらしく、狛崎の腹がぐうと鳴った。
俺は目指すさらに上の明るさで提案する。
「昨日のカレーに何か足して作るよ。ステーキも焼こう」
「ステーキ…………にく…………」
空腹には何事も勝てない。狛崎は帰るのを諦めたらしく、俺に付いてリビングへ入ってきた。
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