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第18話 裏側から
更に階段を降りた薄暗い地下の端っこに、狐の紋が入った重厚な扉を見付けた。狐の紋は皆が知っている。人間界でいう『葵の紋』らしいのだが、『葵の紋』のことを俺はよく知らない。
「…………う…………ぅ、重い……」
重い扉を身体全体を使って開ける。きっとここに狐老会の誰かがいるに違いない。
「あの、すみませんって、誰もいない……?」
そこは、広い空間だった。薄暗く湿ったえんじ色の絨毯敷きの床が続き、窓はない。高い天井から垂れ下がったシャンデリアが不気味に部屋を照らしているも、椅子とテーブルが置かれているのみだった。
中はもぬけの殻だった。ほのかに狐がいた気配がするが、影は見えない。
(もしかして遅かった?)
覚悟を決めて来たのに、がっかりした。
(なんてタイミングの悪い……)
拍子抜けし、ガクリと両手をその場へつく。一気にやる気が無くなった。
「…………何してる」
いきなり、背後から声がしたのだ。さっきまで誰もいなかったのに、俺の後ろには狐が立っていた。
「え、は、ぁ、だ、誰……?」
俺は驚きのあまり飛び跳ねる。暗くてよく分からない。表情が見えなくとも自分より大きな身体はシルエットで伝わってきた。
「あ、あの、こ、ろう会はここですか」
「あ?」
思いっきり不機嫌に聞き返されたため、心が縮こまる。こ、怖い。不良だ。
「狐、老会の、誰かいませんか」
「…………用件」
「そ、それは狐老会の人に直接話します。偉い人はどこにいるか知りませんか?」
「だーかーらー、何の用か聞いてんだろっ?」
ガンっと、壁を蹴られて、身体が更に固まる。
「ひぃっっ…………」
顔がめちゃくちゃ近い。近すぎて相手の表情も何も見えない。
「俺が狐老会だと言ったらどうすんだ」
「………………あなたは、おじいちゃんじゃないです…………」
狐老会は長老の集まりだ。賢くて、穏やかで、判断に偏りの無い人格者が、真面目に決議する場所だと思っていた。数秒前までは。
「ジジイばっかと思うなよ」
ケッと片隅に唾を吐き、鮮やかな赤髪のヤンキーは、俺の髪の毛を掴んだ。
見たことないくらい綺麗な赤色だ。
「お前は、狛崎真那斗だろ」
「……………………」
驚いた俺の表情に赤髪はニヤリと笑う。
「ニンゲンに正体を明かした馬鹿な奴だろう。違うか?」
「……………………」
赤髪は俺のことを知っている。そして、ここに俺が来ることも知っていて、待っていたのだ。
「お前は贖罪に来たのか?」
『しょくざい』の意味が分からず、俺はかぶりを振る。
いきなり部屋の電気が点いた。
「まあいい、お前の冒した罪を今から裁くとしよう。そのためにここへ来たんだろうし、ゆっくり話してもらおうか」
赤髪は、中央に置かれた椅子へ座るように促した。突然現れた椅子に、言われた通り腰を下ろす。
俺は酷く混乱した。
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