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第20話 裏側から

突然現れた人は、木ノ下さんよりも年上に見えた。狐特有の明るい毛の色に、丸眼鏡を掛けている。赤髪とは違い、物腰柔らかな印象だ。丸い大きな目が優しく俺を包むものだから、ずっと張っていた緊張が解け、止めどなく涙が溢れてくる。 深い傷ではないので、直ぐに血は止まった。騒げば赤髪に何かされそうで、俺は静かに大泣きする。 (死ぬほど怖かった。おしっこが漏れそうだった。怖い……怖いよ…………) 「七瀬も怒っていたじゃないか。許さないって、あれ程……今さら助けるなよ」 「状況が変わった。今朝から事態が動いていることを紅緒も薄々勘づいている筈だよ」 「…………だが、こいつがやった罪は消えない」 丸眼鏡の人が、俺をじっと見つめた。 「狛崎君」 「は……は、は、はは、ひゃいっ」 「俺は、七瀬と言います。こっちは紅緒。ご存知の通り、狐老会のメンバーです。君の罪については後でゆっくりと尋問するとして、今はそれよりも確認したいことがあります」 重い空気が流れる。4つの瞳に窒息死させられそうだ。 「君の写真が、とある出版社の有名週刊誌に載ることになりました。誰もが知ってる有名誌です。動画と共に準備されていたのですが、それが今朝になってキレイさっぱり無くなり、大物政治家の汚職に差し替えられました。無くなった理由を知っていますか?」 「えっ…………知らない、です」 俺が知る訳が無い。思いっきりかぶりを振った。知っていたらこんなところに来ない。 記事が消えた……? 「僕と紅緒には、不思議な力があります。物にはアンテナのようなものがあり、電気に似た微量の波形が流れています。それを察知する能力です。最も、紅緒は広範囲に及んで追跡することができます。同時に沢山の情報が脳内に流れ込んでくるみたいで…………」 ふと隣を見ると、さっきまで炎のように怒っていた赤髪は、かっくんかっくんと船を漕いでいた。 なんだか無性に腹が立ってくる。 「話を元に戻そう。写真が世に出る前に、俺たちでどうにかするつもりが、別の力が動いた。しかも権力的なものが」 「けん、りょく……?」 「誰かが、社会的関心が強い政治家汚職を故意に入れました。結果的に君の記事が無くなることになり、写真を撮った記者も行方不明です。狐記事を消すために、後ろで操っている人物がいることは、感覚的に分かりました。しかし、個人の特定には至らず。俺たちの能力は狐優位に働くので、そこまでは分からなかった。で、確認したいのですが、君の秘密は『木ノ下さん』しか知りませんか?」 「たぶん…………」 そこで、俺はふと思った。 木ノ下さんて、何者だ……? 木ノ下さんの1人で住むには些か広いマンションは、親戚から借りているらしい。むっつりスケベで、俺の尻尾が好きらしい。仕事はものすごくできる…………ぐらいしか知らない。 どこ出身で、親兄弟はいるのか。誕生日すら知らなかった。 「…………もしかして、木ノ下さんの……?」 「そのもしかして、です。彼の周りの人が行ったと判断しました」 仮病を使った俺を心配する木ノ下さんの顔が浮かぶ。 何が起きたのかサッパリ分からなかった。 まさに『狐につままれた』気分である。

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