21 / 41

第21話 裏側から

「木ノ下優希。27歳。君が勤めていた会社のトップ営業マンで、妻子無し。君のことを脅して狐を利用としていると密告があったが、実の所は違うよね」 「同意の上です」 『密告』は恐らく桃矢だ。だって木ノ下さんとのことは、桃矢しか知らない。あれ程内緒にしていたにも関わらず、色んな人が知っている関係だったことに驚愕した。 「君と木ノ下氏の関係については言及しない。恋愛は個人の自由だからね。ただ、今後は木ノ下氏と関わらないで欲しい」 「え……っと…………」 「会社は辞めてもらう。君はほとぼりが冷めるまで、狐老会の支配下で監視する」 「………………………」 太ももに乗せていた手をぎゅっと握った。分かっていたことだが、自らの行動の落とし前とは言え、言葉にされると辛いものがある。 ぽたぽたと涙が落ち、手の甲を濡らした。 「自らの行いを反省しなさい。君の後ろには沢山の仲間達がいることを忘れてはならない」 「すみませんでした……」 「ゆっくり考えてから、今後を判断しましょう。申し訳ないが、二度と人間社会へ復帰することはできないよ。それは忘れないで」 「……………………はい」 「君は、自身の判断でここへ来たと思うけど、遅かれ早かれ我々が身柄を拘束しに行ったので、そこのところはあまり悩まないように」 七瀬さんが俺の頭を撫でる。 「木ノ下氏に救われた命を大切にしなさい」 「……うぐっ……ぐず…………うん」 俺は木ノ下さんに助けられていたのだ。木ノ下さんは知らないフリをして全てを知っていた。あの人は、本当にお人好しだ。 (木ノ下さん……木ノ下さん、ごめんなさい。ごめんなさい) 満足なお別れも出来ず人間社会から切り離された。暫くここで暮らすことになる。 こうして俺は、志半ばにして会社を退職し、元いた家も引っ越すことになった。退職処理と引っ越しの手続きは、七瀬さん達が全部やってくれたらしい。トラブルメーカーの問題児扱いされているようで、外へ出ることは一切禁止された。 狐は、とうとう1人になってしまった。

ともだちにシェアしよう!