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第22話ニューワールド

薄暗いアンダーグラウンドを抜け、お日様の下へ飛び出す。 俺が狐であることを忘れる唯一の瞬間だ。この時ばかりは、人間や狐ではなく、ただの生き物になれる。 俺は、しがらみが大嫌いだ。 人間社会から隔離されてちょうど1年。今は狐社会で生きている。正確には『人間社会からはみ出た狐人間の調査』をしながら、更正する方法を教えたり、取り返しのつかない場合は狐老会へ委ねたりしている。全ては狐老会の細かい指示の元で動いており、パシリのような毎日だ。要は狐老会の良い様に使われているということである。 「今日のターゲットは、また男ですかぁ。綺麗な女の子がいいなぁ。ヤル気無くすなぁ」 いつものように隣で項垂れるチャラい男に溜息を吐いた。毎回毎回、同じセリフを何度言えば気が済むのか。 俺の他にも罪を冒した狐は存在する。コンビを組んでいるのは、ホストで失敗した狐である。コミュニケーション能力がずば抜けて高い。追放としない訳があるのか、無いのか。狐老会というものの考えは分からないが、こいつは要らない気がする。 「狛崎さんは何とも思わないんスか」 「別に。仕事だし」 「心から気持ちよく仕事したいと俺は思いますね」 「仕事にそんなことを求めていないよ」 「人間社会出身者はスカしてますね。ま、俺もですけど」 星野は、ぶら下げているチェーンの音を楽しむかのように、ジャラジャラと腰を降った。ウォレットチェーンという代物はホスト時代に客から貰ったものだそうで、かなり高価らしい。俺にはただの金属の塊にしか見えない。 「山根久夫。45歳。会社員。表向きは普通の冴えないサラリーマン。実は裏で痴漢やってまーすって。また痴漢かよ。俺らは痴漢撃退部隊かっつーの」 「最近痴漢が多いね」 「頭の腐った狐は世間に晒されればいいんス」 「あー、そーだね」 「狛崎さんって俺の意見をいつも流しますよね。狐は今後どうなるべきだと思ってますか?ってか、狛崎さんは何の罪を犯してここにいるんスか?」 「…………星野が知る必要は無い」 星野はぷくーと子供のように頬を膨らませる。 「相棒ならもっと話しましょうよ!!」 「はいはい。今度ね」 前、働いていた人間社会の会社で、下っ端の俺は失敗ばかりしていた。その分、先輩が常にフォローを入れてくれた。星野を見てれば分かる。俺は実に手のかかる面倒臭い後輩だったと思う。 ただ、先輩の顔は全く思い出せない。もやがかかったように、表情が伺えない。とてもお世話になった記憶はあるのに、肝心の先輩が分からないのだ。性別は、たぶん男で、背は俺より高かった……ような記憶があったり、なかったり。 ここでは、星野の面倒を見なくてはならず、俺は自然に成長せざるを得なかった。 幸か不幸か、狐人間回収の仕事は、以前の営業よりも俺に向いていた。

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