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第23話ニューワールド
山根の家は、ボロアパート2階の角部屋だ。
掟を破った狐情報は、七瀬さんから貰う。メールだったり、紙だったり、媒体は様々で、情報内容に間違いはほとんど無い。紅緒さんの透視に狂いはない。狐老会は俺が思っているより大きな組織らしく、上にも横にも沢山の狐が関わっている。末端の小さな存在である俺は、全体像を知る由もない。
俺達は留守中に家へ忍び込み、本人を待ち伏せする。鍵は星野が慣れた手つきでピッキングした。
ゴミが散乱した部屋は、どう表現したらいいのか分からない不潔なオッサンの匂いが充満している。決していい香りとは言えない饐えたような匂いに、ぞわぞわと鳥肌が立った。
「きったねー部屋だな……」
「じき帰ってくる。作業するよ」
「ふぁい」
借金の有無、携帯電話の台数等、人間社会との繋がりを確認する。探されても困るので、足跡を全て消去する、その下調べだ。
ある程度の人間関係も切らなければならない。大罪を犯す奴は、独り身で他人と細い繋がりなので、やることは多くない。
「思った通りっすね。寂しい一人暮らしからの、ストレス解消の痴漢」
「うん。借金は50万円か。貯金は20万弱。残りは後で本人に毎月返してもらえばヨシ……と」
「山根はあそこ行きですか?」
「能力にもよるけど、たぶんね」
「うわぁ、可哀想に」
今回山根を捕まえる理由は、2つある。1つ目は、狐が社会風紀を乱したことによる償い。同属意識が強いので、うちの狐がすみませんって感じで詫びる。あくまで人間社会に居候させてもらっている立場を崩さないのが狐だ。
2つ目は、紅緒さんのレーダーに引っかかるということは、そろそろ警察が動く。殆どの狐は、禁錮刑や裁判に耐えうる精神力を持ち合わせていない。結果、途中で狐化してしまい世間を騒がせることになる。俺のようになってしまった場合、助けるのは至難の技だ。だから、事前に回収する。
山根は今後、適性を見て半地下社会の仕事に就く。あらゆる店があるので、職選びには困らないだろう。だが、二度とお日様の下には出してもらえない。反省したって泣いたって、許されることは無いのだ。
初夏の夕方、傾くオレンジ色の日差しが台所へ入ってくる。もうすぐ山根が帰宅する。いつも通り暴れて管を巻くだろうか。それとも観念して従順になるだろうか。
カチっと鍵が静かに解錠され、ドアノブがくるりと回った。
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