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第25話ニューワールド
やばい、と咄嗟に思った。
回収部隊の腕は強く噛まれて血だらけだ。床に小さな赤い海を作っている。
俺が今まで扱った狐達は、人間のまま逃げることはあっても狐化することはまず無かった。大体が罪を認め、素直に従ってくれた。
第一、狐になってしまったら、隠れるには好都合でも生きていけない。人間でありすぎた狐は、野生の本能をとうの昔に忘れてしまっている。ゴミを漁り、地べたで寝るなどできる訳が無いのだ。
とにかく、今の状況では山根を追いかけるしかなかった。自分の経験不足を心底呪う。
「星野、追いかけるよ」
「分かってますって」
そのまま俺は玄関から、星野は窓から飛び出した。
夜の香りが鼻に付く。街灯が物悲しく光っていた。
(遠くへ逃げるようには思えない。あの身体だ。絶体近くにいる)
近くに公園があったのを思い出し、そちらへ猛ダッシュする。
狐化に慣れてない血だらけの身体はどこかで休んでいるはずだ。
スニーカーの踵がキュキュと音を立て、走る身体を止める。全身の毛穴が逆立った。
(…………どこだ……俺にも紅緒さんみたいな透視能力があれば……)
微かに残る狐臭を辿りながら公園の奥へと入っていく。鬱蒼と茂った雑草のなかで、狐の襟をむんずと掴んだ星野が草むらで仁王立ちしていた。野生化しているのは星野だろうか。耳が生えててもおかしくないくらい、彼からも狐の匂いかした。
「はぁ、はぁ……先回り、助かった」
「狐化したら弱るって知らないのかよ。手こずらせんな。おじさん」
「ビャー、ビャー」
萎んだ風船のような萎れた鳴き声で山根は項垂れる。流石に観念したようだった。
今度は慎重に狐を引き渡すべく、二人ががりでがっちりと運ぶ。暴れる狐を送迎専用の車に押し込んだ。
「よろしくお願いします」
「コイツにはきっちりと罪を償ってもらうんで」
「怪我……大丈夫ですか?」
「ええ。なんとか。かなり痛いですが」
「お大事にしてください」
笑顔にシワが寄っている回収部隊を送り出し、俺達は胸を撫で下ろす。
「さて、任務完了っすね。疲れたー」
「確かに。疲れた……」
「後で七瀬さんに呼び出されますね」
「間違いなく怒られると思う」
俺たちは後で七瀬さんに呼び出され、ペナルティを課せられるに違いないのた。
夜道を控えめに照らす下弦の月を見上げる。
何が楽しくて、狐を追いかける仕事をしてるんだか。ちっともやり甲斐が無い。なんともできない自分の置かれた立場に鼻の奥がツンとした。
「…………あれ?もしかして、狛崎じゃないか……??やっぱり狛崎だ!!狛崎!!お前、急に辞めたから心配してたんだぞ」
「…………………わ、渡辺、さん…………?」
背後から近寄る気配には全く気付かず、いきなり声をかけられて驚愕した。
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