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第29話忘れたい(side木ノ下)
とは言え、狐たちに従うばかりも解せない。彼奴らは、あたかも自分たちの所有物のように狛崎を扱うが、狐とはどんな集まりなのか。
俺にふと考えが浮かぶ。
(誰も口出せない場所、つまり外堀を埋めてから狛崎を取り返してはどうだろうか)
『掟』や『決まり』を振りかざし、狐はどこまでも同族を追ってくる。人間が太刀打ちできない不思議な力を使われてしまったら、敵わない。万事が休する。
そもそも、狛崎が狐だから全てがややこしくなる。彼が都合よく人間にならないものか。
現在、俺は非常につまらない。社畜の人生にうんざりしている。家と会社の往復で、楽しみや癒しは存在しない。狛崎が愛でていた兎のミルクは、世話をする意味を見いだせないため、田口に押し付けた。もとい、預けてある。
狛崎が今の状況に満足してるならば問題ない……訳が無いのだ!!
幸せに暮らすことを陰ながら祈る性格でもない。
『俺が』暇なのだ。このまま同じような毎日を送りたくない。もう飽きた。
ポケットからスマホを取り出し、田口へコールする。
「『狐』について調べて欲しい。昔じいさんと何があったのか、分かること全て教えてくれ」
「『彼ら』のことは忘れたかと思ってました」
「辞めた」
「…………分かりました。至急調べます。2、3日いただければ」
「頼んだ」
俺は物分りの良い、優しい人間なんかではないのだ。
助けてやった見返りを、狛崎から求めてやろう。
ほんの少し、明日が待ち遠しくなった。
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