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第30話忘れたい(side木ノ下)

きっちり3日後、田口は報告書を提出してきた。長い報告書に目を通す。  よくある昔話だった。大正初期、反物問屋を営む俺の曾祖父が、何らかの縁で狐助けを始めた。報告書には、帳簿の写しが添付されている。当時の紙幣価値にして家が何十軒も建つくらいの額を、数十年に渡り長い間資金援助を続けた。恐らく、この地方に生息していた狐が、人間社会に進出する為に使われた金と思われる。 曾祖父が亡くなった後も祖父が援助を引き継いでいる。結構な金を毎月毎月振り込んでいた。それが、親父になってからぱったりと止んだのだ。 見ず知らずの相手に金を払うなど、事情を知らない者からしたら気味が悪い行為である。親父が拒否したのも無理がないが、血も涙もない行動は、俺の自虐笑いを誘った。 狐は実に現金であった。支援が無くなれば、一切こちらへ気を遣わない。寧ろ、何百年も生きる狐側からしたら、余計に裏切られたと感じるだろう。 こうして途切れた木ノ下家と狐は時を経て再び繋がる。狛崎を守るという俺が取った行動に狐側は大層驚いただろう。俺が木ノ下の子孫だったとは青天の霹靂だろうに。 とどのつまり、俺が狐に惹かれたのは、遺伝子レベルだったという訳だ。 七瀬は俺が木ノ下の子孫だと知っていたが、昔のことには言及しなかった。俺には引き出す財力が無いことを見抜かれていたらしい。人間に頼るのをやめたかもしれない。 では、何故七瀬は再び俺の前に現れたのか。 言葉通り、狛崎が俺に会わないよう釘を刺しに来たのが、表向きの理由。裏の理由は、狛崎を強引に救い出して欲しいのではと推測した。『狐が感知できないところ』へ連れていけば、狛崎の記憶は消されないし、消す行為自体が叶わない。そもそも俺に知らせることなく、奴の記憶を勝手に操作すればいいのだ。狐の問題に人間を巻き込む方がおかしいだろう。 七瀬は、狛崎を外へ出したがっている。 恐らく、近いうちに狛崎は何らかの形で消される可能性が高い。俺の第六感が告げていた。 (暇つぶしに、やってやろうかな) 狐とは実に情深い生き物である。

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