33 / 41
第33話昼下がりの惨劇
木陰に停めてあったセダンの後部座席へ放り出された。無理に海老反りをしたら、首に痛みが走ったので、必要以上に動かないようにする。隙を見付けて逃げ出すよう体力を温存しなければならない。
一体この2人組は誰だろう。俺が狐だということを知っていたし、狐関係者だろうか。だったら捕まえる方法に、もうちょっと工夫があるだろうに。これは強引で原始的だ。
(……たぶん。この人達は人間だ)
俺はまた何かやらかしたのか。盛大なため息が出た。心当たりが全く無い。どこまでもどこまでも追ってくる人間に絶望する。
漠然とした不安と恐怖が俺を襲う。ガタガタと震えが止まらない。
車は山道を下っているようだった。昼下がりの日差しが木々に影を作る景色から、間もなく市街地へ入り、バイパスを爆走する。
運転席の2人は小声で話をしているが、内容までは聞こえてこない。何となく、助手席の奴に見覚えがあるようなないような、どこか懐かしい気持ちになる。
車の揺れに誘われ、うつらうつらと意識が遠のいていく。寝てる場合じゃないのに、耳へ入ってくる音が心地よかった。
「おい、起きろ。こんな状況でよく寝れるな」
「………………ん…………」
一瞬、いつものアンダーグラウンドかと思ったら違う。明るい日差しが差し込んだ部屋だ。
ここはどこだろうか。
「よお。寝惚けてんなー」
「……え、ん…………………」
「俺のこと忘れたか?」
目の前の人が、真正面からぐいと俺に顔を寄せた。
「……………………あ…………」
記憶がものすごい速さで呼びかけてくる。結びついた画像と音が脳でハレーションを起こし、俺のなかでぱあんと弾けた。
俺はこの人を知っている。ものすごくよく知っている。
「木ノ下、さん…………??」
「ははは、意外と覚えてるんだな。お前の仲間に言われた通りだ。久しぶりだな、狛崎。元気だったか」
木ノ下さん、木ノ下さん、木ノ下さん……何度呼び掛けたか分からない名前の主が目の前にいるという、不思議な現象。
「………………え、えーと…………よく、分かりません。何故あなたが。俺に何の用事ですか」
口が勝手に生意気な言葉を発していた。
ともだちにシェアしよう!