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第33話昼下がりの惨劇

木陰に停めてあったセダンの後部座席へ放り出された。無理に海老反りをしたら、首に痛みが走ったので、必要以上に動かないようにする。隙を見付けて逃げ出すよう体力を温存しなければならない。 一体この2人組は誰だろう。俺が狐だということを知っていたし、狐関係者だろうか。だったら捕まえる方法に、もうちょっと工夫があるだろうに。これは強引で原始的だ。 (……たぶん。この人達は人間だ) 俺はまた何かやらかしたのか。盛大なため息が出た。心当たりが全く無い。どこまでもどこまでも追ってくる人間に絶望する。 漠然とした不安と恐怖が俺を襲う。ガタガタと震えが止まらない。 車は山道を下っているようだった。昼下がりの日差しが木々に影を作る景色から、間もなく市街地へ入り、バイパスを爆走する。 運転席の2人は小声で話をしているが、内容までは聞こえてこない。何となく、助手席の奴に見覚えがあるようなないような、どこか懐かしい気持ちになる。 車の揺れに誘われ、うつらうつらと意識が遠のいていく。寝てる場合じゃないのに、耳へ入ってくる音が心地よかった。 「おい、起きろ。こんな状況でよく寝れるな」 「………………ん…………」 一瞬、いつものアンダーグラウンドかと思ったら違う。明るい日差しが差し込んだ部屋だ。 ここはどこだろうか。 「よお。寝惚けてんなー」 「……え、ん…………………」 「俺のこと忘れたか?」 目の前の人が、真正面からぐいと俺に顔を寄せた。 「……………………あ…………」 記憶がものすごい速さで呼びかけてくる。結びついた画像と音が脳でハレーションを起こし、俺のなかでぱあんと弾けた。 俺はこの人を知っている。ものすごくよく知っている。 「木ノ下、さん…………??」 「ははは、意外と覚えてるんだな。お前の仲間に言われた通りだ。久しぶりだな、狛崎。元気だったか」 木ノ下さん、木ノ下さん、木ノ下さん……何度呼び掛けたか分からない名前の主が目の前にいるという、不思議な現象。 「………………え、えーと…………よく、分かりません。何故あなたが。俺に何の用事ですか」 口が勝手に生意気な言葉を発していた。

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