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第36話昼下がりの惨劇

「この1年間、どんな仕事してた?」 「ダメな狐を回収したり、相談に乗ったり、買い物行ったり……それなりに働いてました」 「ダメな狐ってお前の事じゃないのか」 「ち、違います。ダメだけど、ダメじゃないです。役に立ってました。たぶん、、、」 「充実してたなら、良かった」 木ノ下さん吐いたタバコの煙が、すうーと夜の空へ溶けていく。 ポツリポツリと1年間の話を互いに伝え合う。木ノ下さんは「つまらない会社」へ「つまらない仕事」のため、つまらなく通っているらしい。本当につまらなさそうだった。仕事内容も言いたくないくらいらしい。 「お前とコピー機売ってたころが一番楽しかったよ」 「俺も。あの頃に戻りたいです」 それは俺も同感だ。毎日木ノ下さんに会って、渡辺さんもいて、本当に幸せな日々だった。狐云々より、生きてる意味を見い出せた。 「あのさ」 「はい」 「訳あって、前にいた会社を買収しようと思ってるんだ。そこで働かないか。まあ、お前がここにいるって決めたらの話だが」 「………………………………はぁ?」 あまりにも素っ頓狂すぎて、木ノ下さんの頭がおかしくなったのかと思った。本人は至って真面目である。 「さっき、俺の生活の面倒を見てくれるって言ったじゃないですか。ベビーシッターの愛人ということかと……」 「ベビーシッターの愛人?なんだそりゃ」 「木ノ下さんは、美人の奥さんを貰って、可愛い子供が生まれるから、俺は、その世話をするベビーシッターと、お金を貰う愛人を兼ねるつもりで」 「ふははははは、バッカじゃねえの」 木ノ下さんは腹を抱え豪快に笑った。 「結婚もしないし、愛人も持つ気はない。狛崎は本当に早とちり過ぎ。そのせいで、去年大変な目に遭ったんだからな」 「……う……すみません……でした」 「どれだけ俺が心配したと思ってるんだ」 「本当に反省してます。ごめんなさい」 しょぼんとしている俺の頭を、木ノ下さんが優しく引き寄せた。木ノ下さんの甘い匂いが胸いっぱいに広がる。無意識のうちにぎゅっと抱きついていた。 「もう勝手にどこにも行くなよ」 「…………俺、人間として生きたい。木ノ下さんのこと忘れたくないです」 「別にやりたかったらベビーシッターの愛人でもいいぞ」 「いや、それはやめときます。木ノ下さんが結婚するまで傍に置いてください」 「だーかーらー、結婚はしないっつーの。しつこいよ、君は。ところでさ……」 とても良い雰囲気で、木ノ下さんがゴソゴソと俺のスウェットをまさぐりだした。 「な、な、なんですか!!!」 「尻尾はまだあるのか」 「あります!!!!けど、今ですか?」 「今だろ。俺が触りたい時がその時なんだよ」 別に忘れていた訳ではない。木ノ下さんは俺の尻尾が大好物で、異常なくらいに執着を持っていた。

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