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2018年9月28日-5

「……まぁ、いいわ。とにかく、これでお終い。このことはもう忘れましょう」  優一は顔の前で蜘蛛の巣を払うようにひらひらと手を振ると、ぎこちないながらも明るい笑みを浮かべ、腰を上げた。 「今日は泊まるでしょ?」 岳は頷いた。 「じゃあ、お風呂入ってきなさい。服、洗濯するわね」  不自然なまでに弾んだ声でそう言ってから、るんるんと冷蔵庫へと向かう叔父を見て、岳は貴久と目を合わせる。貴久は口元に微苦笑を滲ませた。  まぁ、いい。優一の言う通りだ。今夜は何も考えない。  けれども夜が明ければ、あるいはその日が近づいてくれば、嫌でも頭に浮かんでくるのだろう。  この13年間ずっと、あの男への憎しみを抱き続けている。  故に、それに縛られた物の考えしかできない。  時には、それが言動となって現れることもある。  怒りと憎悪の鎖から解放され、自由を得ることをつゆも想像せず、期待もしていない。  そういった諦念を抱きながらも、かさを増し横溢(おういつ)せんばかりのどす黒い感情を吐き出したいがために、色んな女や男と交わって生きてきた。  ……憐れな男だと、岳は胸のうちで自らを嘲笑した。  けれども、そんな生き方を選んだのは、紛れもなく自分自身だった。  白桃色の入浴剤が溶けた湯船にどっぷりと浸かり、身体の芯まで温まったところで浴室から出ると、洗面所と洗濯機置き場を兼ねた脱衣所に、優一の姿があった。2年前に買い替え、バタン、ガコンといった不穏な音を立てなくなった全自動洗濯機に軽くもたれかかり、こちらに背を見せていた。  岳が出てきたことに気づき、優一は顔だけをくるっと向けてくる。なぜか、好奇心丸出しの子どものような笑みを浮かべている。岳は訝しんだ。 「何だよ」 「ふふふ。ねぇ、これ。ポケットに入ってたわよ」  籠に用意されていたバスタオルを頭から被ったところで優一が寄ってくる。それから、右手の中指と人差し指で挟んだ紙を見せてきた。 「なんで、製薬会社の人の名刺なんて持ってるの?」  あ、と思い出す。……すっかり、忘れていた。水曜日に履いたチノパンを今日もまた履いてきたが、ポケットにそれが入ったままだったのだ。 「別に、何だっていいだろ」  岳は素っ気なく答え、濡れたソフトモヒカンの短髪と身体をおざなりに拭き始める。優一が詮索するような目でじっと見上げてくるが、ツンとそっぽを向いてやる。  訊かれて気まずいことではないが、教える必要もないことだ。  けれども、優一の関心は削げることなく、むしろ増しているようだった。

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